【売り手向け】M&Aの表明保証|最終契約前に確認すべき4つのポイント

M&Aの最終契約を締結する前に、売り手は表明保証の内容と、違反した場合に負う責任を確認する必要があります。表明保証とは、契約当事者が一定の事項について事実であると表明し、保証することです。本記事では、契約書に署名する前に確認すべき4つのポイントを解説します。
最終契約前に売り手が確認すべき4つのポイント
| ポイント | 主な確認内容 |
|---|---|
| 1. 何をどこまで保証するか | 保証の対象・範囲、知識・重要性による限定 |
| 2. 何を保証の対象から外すか | DDで開示した事項の除外方法、サンドバッギング条項 |
| 3. いつの時点の事実を保証するか | 契約締結時・クロージング時、誓約事項・通知義務 |
| 4. 違反したらどこまで責任を負うか | 補償対象・請求期間・上限額・下限額、特別補償との関係 |
1. 何をどこまで保証するか
表明保証の主な項目には、株式の保有状況、決算書、法令遵守、従業員との関係などがあります。保証する事実と会社の実態を項目ごとに照らし合わせましょう。
例えば、決算書を正確だと保証しても、経理処理に誤りがあれば問題になり得ます。経理担当者に確認し、保証内容と実態が食い違えば条項の修正や対象からの除外を検討します。
知識による限定
「売り手の知る限り」など、認識に応じて保証範囲を限定することがあります。これは知識による限定(Knowledge Qualifier)と呼ばれます。
| 表現 | 基本的な意味 |
|---|---|
| 「知る限り」 | 実際に認識していること |
| 「知り得る限り」 | 実際には知らなくても、認識できた場合を含み得ること |
「知り得る限り」の方が通常は範囲が広くなりますが、意味は契約書の定義によります。誰の認識を基準にするか、どの項目に限定を付けるかを確認しましょう。限定のない事項では、知らなかった問題も違反となることがあります。(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.33〜34/中小企業庁/2025年12月15日時点版)
重要性による限定
決算書の正確性を「重要な点において」と限定する例もあります。これは保証範囲の調整で、補償の下限額・少額免責とは別です。意味は契約文言によります。
2. 何を保証の対象から外すか
何を表明保証の対象から除外するかを確認します。除外する事項を契約書や別紙に一つずつ書く方法と、書面で開示した事項をまとめて除外する方法があります。中小M&Aガイドラインの株式譲渡契約書サンプルの注でも、事実と異なる事項は契約書に除外事項として明記する必要があるとされています。(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.34/中小企業庁/2025年12月15日時点版)
デューデリジェンス(DD)は、買い手が対象会社の実態やリスクを調べる手続きです。デューデリジェンスで資料を渡しただけでは、当然に免責されるわけではありません。どの資料を、いつ、誰に、どう開示すれば除外対象となるか、契約書で確認しましょう。
デューデリジェンスで開示した資料の一覧は、開示日時も記録しておけば、何をいつ開示したかを確認する手がかりになります。ただし、一覧を最終契約書に添付するだけで、表明保証の除外範囲が広がるわけではありません。
サンドバッギング条項
契約前に買い手が知っていた問題についても、後から表明保証違反を理由に請求できるか。これがサンドバッギングの論点です。
- アンチ・サンドバッギング条項(アンチ条項):売り手に有利な条項。買い手が知っていた、または知り得た問題などについて、買い手からの請求を制限する。
- プロ・サンドバッギング条項(プロ条項):買い手に有利な条項。買い手が問題を知っていたことなどを理由に、売り手の責任を免除・軽減しない。
アンチ条項には、買い手が契約時点で知っていた、または知り得た事実と、デューデリジェンスで提供を受けた情報に含まれる事実を、1つの条項で表明保証の違反にならないとする例もあります。
一方、プロ条項があると、デューデリジェンスで開示していても責任を免れないことがあります。内容を理解しないまま契約すると、後で争いになりかねません。サンプルの注でも、売り手が意味を確認し、削除・修正を検討する必要があるとされています。(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.24〜25/中小企業庁/2025年12月15日時点版)
資料やマネジメントインタビューでの口頭説明が買い手に伝わったかは、後で争いになり得ます。そのため、特定のリスクについては、特別補償で個別に定めることも検討しましょう。
3. いつの時点の事実を保証するか
表明保証は、最終契約の締結時点とクロージング時点の両方に求められる場合があります。クロージングとは、株式や事業の引渡しと代金の支払いです。締結後に事情が変わる場合もあるため、どの時点を保証するか確認します。
表明保証と混同しやすい誓約事項は、締結後も通常どおり営業を続けるなど、行為についての約束です。一方、表明保証は事実についての保証です。
契約によっては、売り手が表明保証に反する行為をせず、違反やそのおそれがあれば買い手へ知らせる義務を定めます。サンプルでは直ちに通知すると定めていますが、内容は契約によって異なります。通知先・期限・方法を確認しましょう。(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.18〜19/中小企業庁/2025年12月15日時点版)
4. 違反したらどこまで責任を負うか
表明保証違反時の補償責任の範囲も確認します。
- どの表明保証違反について補償するか
- 補償額の上限と、請求の対象となる損害の下限
- いつまでに、どのような方法で請求されるか
- 表明保証違反以外の義務違反や特別補償にも、同じ制限が適用されるか
中小M&Aガイドライン(第3版)では、補償の期間や上限がない場合や適用場面が曖昧な場合、売り手が過大な責任を負うおそれがあるとされています。関係悪化で争いになると損害額の算定も難しく、過大請求のリスクもあります。責任の範囲は契約前に明確にしましょう。(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.52〜53/中小企業庁/2024年8月30日公表)
買い手がデューデリジェンスで認識した問題と保証を求める理由を確認しましょう。リスクの影響や譲渡価格への織込みを踏まえ、保証範囲・特別補償・価格条件を話し合いましょう。(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.53/中小企業庁/2024年8月30日公表)
FAQ
売り手が知らなかった問題でも、補償を求められますか?
はい。売り手が知らなかった問題でも、契約で保証した事実と異なれば表明保証違反となる場合があり、補償を求められることがあります。ただし、補償責任の有無は「知る限り」などの限定、除外事項、補償条件によって異なります。最終契約前に「知識による限定」も確認しましょう。
まとめ|表明保証の内容と責任範囲を確認してから契約する
保証範囲・除外事項・保証時点・違反時の責任を確認し、実態と開示情報を照合し、保証できない内容を残さず契約しましょう。
ひな形や交渉中の修正案で、知らないうちに保証範囲が広がっていないか確認しましょう。(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.31/中小企業庁/2025年12月15日時点版)
責任範囲が不明なら締結前に弁護士へ、税務・会計上の事実は顧問税理士へ相談しましょう。M&A仲介やFA(フィナンシャル・アドバイザー)の説明と、弁護士による法的確認は役割が異なります。

