M&Aの補償条項とは?上限・下限・請求期間と特別補償

M&Aの補償条項とは?上限・下限・請求期間と特別補償。補償額の上限と下限、補償を請求できる期間、特定のリスクに備える特別補償を3つのアイコンで示した画像

M&Aの補償条項とは、表明保証や契約上の義務に違反した場合などに、損害をどう補うかを定める条項です。補償の範囲・上限額・下限額・請求期間と、特定のリスクに備える特別補償について解説します。

M&Aの補償条項とは

表明保証は、会社の財務などの一定の事項について、真実かつ正確であると約束するものです。補償条項は、M&Aの最終契約で、その約束に違反した場合などに、誰がどのような損害を負担するかを定める条項です。

対象には、表明保証違反だけでなく、契約上の義務違反もあります。売り手が買い手に補償する場合に加え、買い手が売り手に補償する場合もあります(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.24・26/中小企業庁/2025年12月15日時点版)。

補償条項で決める4つのこと

補償条項では、主に次の4つを決めます。具体的な金額・期間は、案件ごとに交渉して定めます。

このうち、上限額・下限額・請求期間については、どの違反に適用されるかも確認しましょう。適用対象は契約の定めによります。中小M&Aガイドラインの株式譲渡契約書サンプルでは、これらの制限を表明保証違反に基づく補償に設けており、契約上の義務違反には同じ制限を設けていません(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.24/中小企業庁/2025年12月15日時点版)。

1. 補償の範囲

対象とする違反と、補償する損害・損失・費用の範囲を定めます。

サンプルでは、補償する費用に合理的な弁護士費用を含めています。また、買い手が損害の拡大を防ぐ措置をとらなかったために広がった損害について、売り手は合理的な範囲で補償しなくてよいとしています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.24/中小企業庁/2025年12月15日時点版)。

2. 補償の上限額

譲渡価格に対する割合などで、補償総額の上限を定めます。一律の相場として決まった割合があるわけではありません。

サンプルの注では、高い上限には相応の理由が必要であり、特に譲渡価格の100%に近い上限は、妥当性を慎重に検討する必要があるとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.24/中小企業庁/2025年12月15日時点版)。

3. 補償の下限額

少額の損害を対象から除くため、1件あたりの下限と、損害の合計額の下限を設けることがあります。サンプルは、1件あたりの下限を超える損害を合計し、その合計額が所定の下限を超えた場合に、合計額の全額を補償する形です(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.24/中小企業庁/2025年12月15日時点版)。

一方、合計額のうち下限を超えた部分だけを補償する形もあります。この場合、下限までの金額は補償しなくてよい部分、つまり免責となります。下限の金額だけでなく、超えたときにいくら補償するかを確認します。

4. 補償を請求できる期間

クロージング(株式や事業の引渡しと代金の支払い)からいつまで請求できるかを定めます。期間内に書面で請求するなど、必要な手続きも併せて確認しておきましょう(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.24/中小企業庁/2025年12月15日時点版)。契約締結日やクロージング日など、表明保証を行う時点と、補償を請求できる期間は区別して確認します。

当社の支援実績では、違反の種類に応じて、次のように別の期間を定めた例があります。表の競業避止義務とは、一定期間、対象会社と競合する事業を行わない義務です。

対象となる違反 別の期間を定める例
競業避止義務の違反 競業を禁止する期間
未払い残業代など労働関係の表明保証違反 クロージング日から3年間
クロージング後の税務調査で判明した税務の表明保証違反 クロージング日から7年間

これらは当社が支援した案件の例であり、法定期間や一般的な相場を示すものではありません。

特別補償条項とは

分かっているリスクへの補償を個別に定める

特別補償条項は、特定のリスクが現実になった場合の補償を個別に定める条項です。表明保証違反の有無にかかわらず補償する内容とすることがあります。

デューデリジェンス(DD)は、対象会社のリスクなどを確認する調査です。デューデリジェンスで見つかったが、クロージングまでに解消できないリスクや、現実になるかどうか・損害額を契約時点で見積もりにくいリスクについて、特別補償を検討します。

サンプルの注でも、買い手が特に認識したリスクについて、特別補償を別途定めることもありうるとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.25/中小企業庁/2025年12月15日時点版)。

例えば、未払い残業代を請求されるおそれや、必要な許認可を取得していないおそれが分かっている場合です。

補償条項との違いと、個別に決めること

比較項目 補償条項 特別補償条項
対象 表明保証違反や契約上の義務違反 個別に特定したリスク
補償するきっかけ 違反によって損害などが生じたとき 特定したリスクが現実になり、損害などが生じたとき
買い手が事前に知っていた問題 買い手の認識が責任にどう影響するかは契約による 事前に把握したリスクを対象とすることがある
上限額・期間 適用対象や条件は契約による 別の条件を定めることがある

特別補償も無制限とは限らず、対象範囲・上限額・請求期間の確認が必要です。

把握したリスクへの対応には、譲渡価格に織り込む方法や、契約前に問題を解消する方法もあります。

売り手・買い手が補償条項で確認すること

売り手が確認すること

上限額・下限額・請求期間が定められているか、それぞれがどの違反に適用されるかを確認します。特別補償についても、対象となるリスクの範囲、上限額、請求期間が具体的に定められているかを確かめましょう。

買い手が確認すること

把握したリスクを、価格・表明保証・特別補償のどこで扱うかを確認します。契約上は請求できても、売り手に支払う資力がなければ回収できないおそれがあるため、実際に補償を受けられるかも確かめます。

表明保証違反による損害に備える表明保証保険も選択肢の一つです。利用する場合は、一般に、デューデリジェンスの報告書などを保険会社に提出し、引受審査を受ける必要があります(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.23・53/中小企業庁/2024年8月30日公表)。

請求期限と手続きを把握し、決算やPMI(M&A後の経営統合)で問題が分かった場合に対応できるようにしておきましょう。

FAQ

補償を請求できる期間や補償額の上限は、どのくらいですか?

一律には決まっておらず、案件ごとに交渉して定めます。違反の種類によって別の請求期間を設けることもあります。上限額について、中小M&Aガイドラインの株式譲渡契約書サンプルの注では、高く設定する場合は相応の理由が求められ、譲渡価格の100%に近い上限は妥当性を慎重に吟味する必要があるとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.24/中小企業庁/2025年12月15日時点版)。金額・期間と併せて、どの違反にその条件が適用されるかを確認してください。

まとめ|補償の条件は、対象となる違反と併せて確認する

補償条項では、何の違反に、どの範囲・金額・期間が適用されるかを確認します。特定のリスクには、特別補償も検討します。

売り手・買い手の双方が条件を確認し、最終契約を結ぶ前に、契約案を弁護士などと整理しましょう。責任の範囲と、実際に請求するときの条件を具体的に理解しておくことが大切です。