【買い手向け】M&Aのメリット・デメリット

買い手向けM&Aメリット・デメリットの図解

M&A(買収)を検討する買い手企業にとって、成長スピードの加速や経営資源の獲得といったメリットがある一方、買収資金の確保や各種リスクへの対応といったデメリットも存在します。本記事では、買い手が知っておくべきM&Aのメリット・デメリットの一覧とともに、買収判断で失敗しないための重要ポイントを分かりやすく解説します。


買い手にとってのM&Aのメリット・デメリット一覧

買い手におけるM&Aの主なメリットとデメリット・リスクの全体像は以下のとおりです。

買い手のメリット 買い手のデメリット・リスク
1. 人材・技術・顧客基盤などの経営資源を獲得できる 1. 簿外債務や偶発債務などを引き継ぐ可能性がある
2. 事業成長までの時間を短縮できる 2. 高値づかみとなる可能性がある
3. 既存事業を強化できる 3. 買収後に人材が流出する可能性がある
4. 新規事業への参入や事業の多角化を進められる 4. 重要取引や許認可を継続できない可能性がある
5. 買収後の経営統合(PMI)が計画どおりに進まない可能性がある

買い手が得られる4つのメリット

M&Aを活用することで、自社単独での成長投資(オーガニックグロース)と比較して、短期間で事業の成長に繋げられる可能性があります。

1. 必要な経営資源を獲得する

M&Aでは、対象会社が培ってきた人材、技術、ノウハウ、設備、顧客基盤などを取得できる場合があります。自社だけでは確保が難しい経営資源を補い、経営基盤を強化できる点がメリットです。

自社の販売網や資金力などと対象会社の経営資源を組み合わせることで、売上の増加や費用の削減などのシナジーが期待できる場合もあります。

ただし、取得した経営資源を買収後も維持できるとは限りません。雇用、許認可、契約の引き継ぎ方は、株式譲渡か事業譲渡かによって異なります。株式譲渡では、原則として雇用や契約は対象会社に残ります。一方、事業譲渡では、従業員の個別同意や契約の結び直し、許認可の再取得などが原則として必要です。

経営方針を丁寧に説明し、適切な労働条件を示すなど、人材や取引先との関係を維持する取り組みも必要です。

2. 事業成長までの時間を短縮する

新規事業の立ち上げや新しい地域への進出を自社だけで行う場合、市場調査、店舗や工場の確保、人材の採用・育成などに時間がかかります。

M&Aでは、すでに稼働している事業や組織を取得できる場合があります。事業基盤を一から構築する期間や試行錯誤を減らし、成長までの時間を短縮できる点がメリットです。

ただし、時間短縮の効果を得るには、買収後の運営を円滑に進める必要があります。経営統合の準備が不十分な場合は、手続きや調整にかえって時間がかかることもあります。

3. 既存事業を強化する

同業種の対象会社を買収することで、対象会社が築いてきた営業地域や顧客基盤を活用できる場合があります。自社の営業網と組み合わせれば、市場シェアの拡大や売上機会の増加を目指せます。

取引規模の拡大によって、仕入れ費用の削減や物流の効率化などのスケールメリットが生じる場合もあります。スケールメリットとは、事業規模の拡大によって費用の削減や生産性の向上を図る効果です。

ただし、規模を拡大するだけで期待した効果を得られるとは限りません。自社と対象会社の強みをどのように組み合わせ、何を改善するのかを買収前に具体化することが重要です。顧客との契約や取引条件について、個別の同意や確認手続きが必要になることもあります。

4. 事業を多角化する

自社とは異なる分野の事業を買収することで、新しい事業領域へ参入できる場合があります。複数の事業を組み合わせることで、単一事業への依存を抑えることにもつながります。

すでに実績のある事業やノウハウを取得できれば、自社だけで新規事業を立ち上げる場合より、参入の負担を抑えられることがあります。

ただし、自社に知見のない分野では、対象会社の事業を適切に評価し、買収後に運営することが難しくなる場合があります。事業を増やすだけでなく、対象会社を管理できる体制と、自社の経営資源との組み合わせを検討する必要があります。


買い手が気をつけるべき5つのデメリット・リスク

M&Aにはメリットがある一方で、買収前には把握しにくい問題や、買収後に顕在化するデメリット・リスクもあります。主に次の5つが挙げられます。

1. 簿外債務や偶発債務などを引き継ぐ可能性がある

対象会社を買収した後に、事前に把握できていなかった債務や問題が判明する場合があります。未払い残業代や税務上の問題、訴訟・損害賠償に発展する可能性のある事項などが買収後に顕在化する可能性があります。

特に株式譲渡では、対象会社そのものの株式を取得するため、会社が抱える権利義務は原則としてそのまま残ります。そのため、財務諸表だけでは把握できない簿外債務や偶発債務などが存在していないか確認することが重要です。

こうした問題が買収後に顕在化すると、想定していなかった支出や損失が発生する可能性があります。買収前にデューデリジェンス(DD)を行い、財務・法務・税務・労務などの実態を確認する必要があります。

2. 高値づかみとなる可能性がある

対象会社の収益力や将来性、M&Aによって期待されるシナジーなどを過大に評価すると、実態に対して割高な価格で買収してしまう可能性があります。買収価格が高すぎると、想定した収益を得られず、投資回収が難しくなる場合があります。

実際の買収価格は、対象会社の財務状況や収益力、将来性、市場環境、交渉条件などによって変わります。また、買収後の収益性などによっては、のれんの減が生じる可能性もあります。

対象会社の事業計画や将来予測をそのまま前提とするのではなく、その実現可能性やリスクを確認した上で、企業価値評価などを参考に買収価格の妥当性を検討することが重要です。

3. 買収後に人材が流出する可能性がある

M&Aによる経営方針や人事制度、職場環境などの変化に対する不安から、対象会社の従業員が退職する可能性があります。特に、事業価値を支えるキーパーソンが離職すると、買収によって獲得した経営資源の価値が低下する場合があります。

経営幹部や営業担当者、技術者などが離職すると、顧客との関係や技術・ノウハウが失われ、買収後の事業運営やシナジーの実現に影響する可能性があります。

そのため、買収前から重要な人材を把握するとともに、秘密保持とのバランスを考慮しながら、公表時期やコミュニケーション方法、必要に応じた残留策を検討することが重要です。

4. 重要取引や許認可を継続できない可能性がある

M&Aをきっかけに、対象会社と重要な取引先との関係が変化したり、必要な許認可をそのまま引き継げなかったりする場合があります。重要な取引や許認可を継続できなければ、買収後の事業運営に影響する可能性があります。

例えば、重要な契約にCOC条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が設けられている場合、経営権の変更に伴って相手方への通知や承諾が必要となることがあります。

また、許認可の取扱いはM&Aの手法や許認可の種類によって異なります。特に事業譲渡では、許認可が当然には承継されず、買い手側で新たな取得などが必要になる場合があります。

そのため、重要契約や許認可については、採用するM&Aの手法を踏まえて事前に確認することが重要です。

5. 買収後の経営統合(PMI)が計画どおりに進まない可能性がある

M&Aの成立後には、買収の目的を実現するため、経営方針、組織、人事制度、業務プロセス、システム、企業文化などの統合やすり合わせを進める必要があります。PMIが計画どおりに進まない場合、従業員の混乱や業務効率の低下、組織間の連携不足などが生じる可能性があります。

また、経営陣や担当者が統合作業に多くの時間を割くことで、自社の既存事業の管理に影響する場合もあります。

こうした統合の遅延や不調によって、売上拡大やコスト削減、販路の拡大、経営資源の相互活用など、当初想定していたシナジーを十分に実現できない可能性があります。

PMIは基本的にM&A成立後に行いますが、準備は成立前から進め、買収の目的や統合方針、実施体制を整理しておくことが重要です。

M&Aのデメリット・リスクを抑える3つのポイント

1. デューデリジェンスと企業価値評価を適切に行う

M&Aを実行する前に、対象会社の財務・税務・法務・労務・事業などについてデューデリジェンス(DD)を行い、簿外債務や偶発債務、重要契約、許認可などのリスクを確認します。

また、対象会社の収益力や財務状況、事業計画などを踏まえて企業価値を検討し、将来への過度な期待によって高値づかみとならないよう、買収価格の妥当性を確認することが重要です。

2. DDで把握したリスクを契約条件に反映する

DDでリスクが判明した場合は、確認するだけで終わらせず、買収価格や最終契約の条件に反映します。

例えば、表明保証や補償、誓約事項を定めるほか、重要契約の承諾取得や許認可への対応などをクロージングの前提条件とする方法があります。把握したリスクに応じて適切な契約条件を検討することで、買収後のトラブルを抑えることにつながります。

3. 買収前から人材の定着とPMIを準備する

買収後の事業を安定させるためには、対象会社のキーパーソンや重要な取引先を把握するとともに、**買収後の経営統合(PMI)**を見据えた準備が必要です。

買収の目的や統合方針を明確にし、人事・組織、業務、システムなどの統合方法や実施体制を事前に整理します。買収成立前からPMIを見据えて準備することで、人材流出や統合の遅延・不調といったリスクを抑えやすくなります。

まとめ

M&Aには、人材・技術・顧客基盤などの経営資源の獲得や事業成長までの時間短縮、既存事業の強化、新規事業への参入・多角化など、買い手にとってさまざまなメリットがあります。

一方で、簿外債務や偶発債務の承継、高値づかみ、人材流出、重要取引や許認可を継続できないリスク、買収後の経営統合(PMI)の遅延・不調などのリスクもあります。買い手が注意すべきリスクと具体的な対策については、買い手向けM&Aのリスクで詳しく解説しています。

M&Aを検討する際は、メリットとデメリットの両方を理解し、自社がM&Aによって何を実現したいのか、どのような経営資源を獲得したいのかを明確にすることが重要です。

そのうえで、対象会社や買収価格を十分に検討し、必要に応じてM&A支援機関や公認会計士、税理士、弁護士、金融機関などへ相談しながら検討を進めましょう。

M&A・事業承継の支援ならトラストベース

トラストベースでは、M&Aによる事業拡大や新規事業への参入などを検討している中小企業経営者からのご相談を受け付けています。M&Aを行うか決めていない段階でも、買収の目的や必要な経営資源、対象会社に求める条件などを整理できます。