【売り手向け】M&Aにおけるリスクとは?失敗を防ぐための対策と注意点を解説

売り手向けM&Aにおけるリスクと対策

M&Aを検討する売り手にとって、どのようなリスクがあり、どう備えるかは重要な判断材料です。本記事では、売り手が知っておきたい主なリスクと、リスクが生じやすい段階、事前に取れる対策を整理して解説します。

M&Aで売り手にリスクが生じる理由

M&Aは、会社や事業の経営権、資産、契約関係などを買い手へ移す取引です。相手方との交渉や調査、契約手続きを重ねて進めるため、それぞれの場面で確認すべき事項が生じます。

特に中小企業のM&Aでは、情報管理の不備 、財務や労務上の問題の発覚 、不適切な買い手との取引 、経営者保証に関するトラブル などが問題となることがあります。

こうしたリスクを完全になくすことは困難です。ただし、あらかじめ発生要因を把握し、必要な準備を行うことで、トラブルが生じる可能性や影響を小さくできます。


売り手が知っておくべきM&Aの主なリスク

売り手が特に注意したいリスクは、次の6つです。

1. 情報漏洩

M&Aを検討している事実が外部に漏れると、経営陣からの正式な説明より先に従業員へ情報が伝わり、不安や動揺が広がることがあります。その結果、従業員の離職につながる場合もあります。

取引先や顧客、金融機関に早い段階で伝わった場合は、取引関係や信用面に影響が及ぶことがあります。

情報漏洩は、相談先の選定から買い手候補への打診まで、M&Aの初期段階で起こりやすいリスクです。検討の初期から秘密保持契約(NDA) を締結し、社内を含めて情報を共有する範囲と時期を管理する必要があります。

2. 成約の不成立

M&Aは、売り手と買い手の双方が条件に合意して初めて成立します。時間をかけて準備を進めても、必ず買い手が見つかるとは限りません。

希望条件の乖離や交渉の長期化のほか、デューデリジェンス(DD)で問題が判明して破談に至ることもあります。デューデリジェンスとは、買い手が対象会社の財務、法務、労務などの状況を詳しく調べる手続きです。

第三者への譲渡が成立しなかった場合、後継者不在の企業では、親族内承継や従業員承継を含めて、事業承継の方法をあらためて検討することになります。

3. 希望譲渡条件からの乖離

譲渡価格や譲渡時期、従業員の処遇、経営者の関与など、売り手が希望する条件が、そのまま実現するとは限りません。

特に譲渡価格は重要な交渉事項の一つです。実際の譲渡価格は、対象会社の収益力や財務状況、買い手が期待するシナジー、市場環境、交渉条件などによって変動します。

また、譲渡価格以外の条件についても、買い手の意向や交渉の結果によって、当初の希望と異なる内容になる場合があります。

そのため、譲渡価格だけでなく、譲渡時期、従業員の処遇、経営者の引継ぎ期間などについて、希望条件と優先順位をあらかじめ整理しておくことが重要です。そのうえで、譲れない条件と、一定の範囲で調整できる条件を明確にしておくことで、交渉時の判断がしやすくなります。

4. 譲渡時の表明保証・譲渡後の補償責任

M&Aの最終契約では、表明保証補償に関する条項が定められることがあります。

表明保証とは、財務、法務、労務などの一定の事項について、売り手が契約締結時などに事実が正確であることを表明し、保証するものです。

補償とは、譲渡後に未払い残業代などの労務問題、簿外債務(貸借対照表に計上されていない債務)、税務上の問題等が判明し、表明保証違反や契約上の義務違反などによって買い手に損害が生じた場合に、契約で定めた範囲で売り手がその損害を補うことです。

そのため、最終契約を締結する際には、表明保証の対象範囲、補償の上限額、請求できる期間を確認することが重要です。

5. 経営者保証の残存

不適切な買い手との間でM&Aによって生じるトラブルの一つが、経営者保証の残存です。

譲渡実行後、個人保証が解除されず、経営者保証が残ったまま対象会社が倒産し、売り手経営者が保証債務の履行を求められ、個人破産に至った事例等が報告されています。(出典:M&Aに関するトラブルにご注意ください/中小企業庁、2024年8月30日公表)

そのため、買い手を選ぶ際は、提示された譲渡価格や条件だけでなく、資金力や信用力、過去のM&A実績などを確認し、譲渡後も事業を適切に運営できる相手かを見極めることが重要です。

また、経営者保証がある場合は、金融機関等への事前相談を検討するとともに、最終契約において経営者保証をどのように扱うのかを明確にしておく必要があります。経営者保証はM&Aの成立によって自動的に解除されるものではないため、解除や買い手側への保証の切り替えなどについて、金融機関等と事前に協議することが重要です。

中小M&Aガイドラインでは、仲介者・FAに対しても、経営者保証について金融機関等への相談が選択肢となることの説明や、最終契約における経営者保証の扱いの調整などを求めています。売り手だけで判断せず、必要に応じてM&A支援機関や士業等の専門家の支援を受けながら確認しましょう。

6. 後払いの不履行

不適切な買い手とのM&Aによって生じるトラブルの一つが、譲渡対価や退職慰労金などの後払いの不履行です。

M&A成立時に支払われる譲渡対価は低額で、一定期間後に相当額の退職慰労金を支払う契約を締結したものの、支払期日を迎えても退職慰労金が支払われなかった事例が報告されています。(出典:M&Aに関するトラブルにご注意ください/中小企業庁、2024年8月30日公表)

そのため、買い手を選ぶ際は、提示された譲渡価格だけでなく、支払時期や支払方法を確認するとともに、買い手の資金力や信用力、過去のM&A実績などを確認することが重要です。

後払いとなる金額や支払期日、支払条件などを最終契約で明確にするとともに、後払いが履行されない場合のリスクも踏まえて契約条件を検討する必要があります。

中小企業庁も、クロージング時点の譲渡対価が低額で、その後に相当程度の譲渡対価を支払う条件を提示されている場合について、特に注意を呼びかけています。条件に違和感がある場合はそのまま契約を進めず、M&A支援機関や弁護士などの専門家に相談し、買い手の信用力や契約条件を十分に確認しましょう。


M&Aのどの段階でリスクが発生するのか

M&Aのリスクは、特定の段階だけで発生するものではありません。検討・準備から譲渡後まで、段階ごとに確認すべき事項が異なります。なお、クロージングとは、株式や資産の移転と代金の支払いを行い、取引を実行する手続きを指します。

M&Aの段階 主なリスク 売り手が確認すべきこと
検討・準備
  • 相談先・社内からの情報漏洩
  • 自社の財務、労務、法務上の問題の未把握
  • 相談先との秘密保持契約(NDA)
  • 財務、労務、契約、株式関係の事前整理
相手探し
  • 不適切な買い手への情報開示
  • 相談先・社内・買い手候補からの情報漏えい
  • 開示情報の段階的な管理
  • 買い手候補の信用力と実績の確認
条件交渉・基本合意
  • 譲渡価格や条件の不一致
  • 独占交渉による他の選択肢への影響
  • 希望条件と優先順位の整理
  • 基本合意書の内容と法的拘束力の確認
デューデリジェンス
  • 未払い残業代や簿外債務の発覚
  • 発覚に伴う減額や破談
  • 必要資料の適切な開示
  • 事前に把握した問題への対応
最終契約
  • 表明保証違反に基づく補償責任
  • 経営権の変更を理由に契約解除等が生じ得る条項(COC条項)への対応漏れ
  • 経営者保証への対応漏れ
  • 表明保証と補償条件の確認
  • COC条項のある契約の洗い出し
  • 経営者保証の解除方法の確認
クロージング
  • 株式や資産の移転手続きの遅延
  • 譲渡対価の支払いに関するトラブル
  • クロージング条件の充足
  • 株式や資産の移転と代金受領の確認
クロージング後
  • 表明保証違反等に基づく補償請求
  • 従業員の離職
  • 取引先との関係悪化
  • 経営者保証の残存
  • 後払いの不履行
  • 契約上必要となる対応
  • 引継ぎの実施
  • 従業員と取引先への説明
  • 金融機関への手続き

M&Aを進める際は、現在どの段階にあり、次にどのリスクを確認すべきかを整理しながら進めることが重要です。


売り手がM&Aのリスクを軽減するための6つの対策

リスクを完全になくすことはできませんが、事前の準備によって影響を小さくできます。ここでは6つの対策を、それぞれが前章のどのリスクに対応するかとあわせて整理します。

  1. 財務・法務・労務の事前整理:成約の不成立、譲渡価格と手取り額の乖離、譲渡後の補償責任
  2. 情報開示の範囲と時期の管理:情報漏洩
  3. 希望譲渡条件と優先順位の整理:希望譲渡条件からの乖離
  4. 最終契約の精査:譲渡後の補償責任、経営者保証の残存、後払いの不履行
  5. M&A支援機関と買い手の確認:経営者保証の残存、後払いの不履行
  6. 金融機関との事前協議:経営者保証の残存

1. 財務・法務・労務の事前整理

M&Aの手続きを本格的に進める前に、自社の状況を整理します。事前に問題を把握しておくことで、デューデリジェンスで問題が判明した際の影響を抑えるための準備ができます。

主に次のような項目を確認します。

  • 株主・株式:株主名簿と株式の保有状況、権利関係、株券の有無
  • 会計・税務:会計処理や税務申告における懸念点の有無
  • 労務:未払い残業代などの労務上の問題の有無
  • 契約書:重要な取引先との契約書を整理、経営権が変わった場合の契約に関する条項(COC条項)の有無
  • 許認可・紛争:事業に必要な許認可の状況や、訴訟・紛争の有無
  • 簿外債務:貸借対照表に計上されていない債務や偶発債務の有無

問題が見つかった場合でも、是正や買い手への説明などによって対応できる場合があります。

2. 情報開示の範囲と時期の管理

M&Aでは、検討している事実そのものが重要な機密情報です。誰に、どの段階で開示するのかをあらかじめ決めておくことが重要です。

開示先ごとに、次の点を確認します。

  • M&A支援機関・買い手候補:秘密保持契約(NDA)の締結と、秘密保持義務の内容を確認
  • 相手探しの初期段階:社名などを伏せた資料(ノンネームシート)を用い、交渉の進展に応じて詳細な企業情報を段階的に開示
  • 従業員・取引先:M&Aの進捗状況と関係者への影響を踏まえ、誰に、いつ、どのように伝えるかを検討

一度広がった情報は元に戻せないため、開示の判断はM&A支援機関とも相談しながら進めます。

3. 希望譲渡条件と優先順位の整理

提示された譲渡価格だけで判断するのではなく、取引全体の条件と、最終的に手元に残る金額を確認します。M&Aの交渉を始める前に、譲渡価格だけでなく、譲渡時期や従業員の処遇などを含めた希望条件を整理し、優先順位を決めておくことが重要です。

たとえば、次のような項目を整理します。

  • 譲渡価格:希望する金額と、条件次第で受け入れられる範囲
  • 譲渡時期:いつまでに譲渡したいか
  • 従業員の処遇:雇用の継続や待遇について希望する条件
  • 経営者の関与:譲渡後の引継ぎ期間や役職の継続有無
  • 取引先との関係:主要な取引先との関係をどのように引き継ぐか
  • 経営者保証:解除や買い手側への切り替えについて希望する条件
  • 支払条件:一括払いか後払いを含むか、支払時期をどうするか

すべての希望条件を同時に満たすことが難しい場合もあります。そのため、必ず実現したい条件、できれば実現したい条件、一定の範囲で妥協できる条件を分けておくと、買い手との交渉で判断しやすくなります。

また、譲渡価格だけを見て判断するのではなく、税金やM&A支援機関への手数料などを踏まえ、最終的な手取り額もあわせて確認します。税務上の取り扱いは取引スキームや条件によって異なるため、必要に応じて税理士などの専門家に確認します。

4. 最終契約の精査

最終契約書は、譲渡価格だけではなく、譲渡後の売り手の責任を定める契約です。

特に次の項目を確認します。

  • 表明保証:どのような事項について売り手が表明・保証するのかを確認
  • 補償条件:表明保証違反などが生じた場合の補償範囲、上限額、請求期間を確認
  • COC条項:経営権の変更によって契約解除などが生じる可能性のある契約を洗い出し、必要に応じて契約相手と調整
  • 経営者保証:金融機関等との協議状況や、解除・切り替えの方法を確認
  • 支払条件:譲渡対価や退職慰労金などに後払いが含まれる場合は、金額、支払期日、支払条件、不履行時の取り扱いを確認

表明保証や補償の内容は案件ごとに異なります。契約締結前に弁護士などの専門家へ確認することが重要です。

5. M&A支援機関と買い手の確認

M&A支援機関と買い手のどちらについても、条件面だけで選ばないことが重要です。

それぞれ、次の点を確認します。

  • M&A支援機関:支援実績、専門性、手数料体系、業務範囲、専任条項・テール条項、利益相反への対応を確認
  • 買い手:資金力、信用力、過去のM&A実績、買収後の経営方針、従業員の処遇に関する考え方を確認

中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)では、仲介者やFAに対して、買い手に関する調査の実施と、その概要・結果を依頼者へ報告することなどが求められています。支援機関を選ぶ際は、このガイドラインへの対応状況も確認材料の一つとなります。(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)

6. 金融機関との事前協議

経営者保証がある場合は、M&Aを実行しただけでは解除されないため、早い段階から金融機関等と協議します。

主に次の点を確認します。

  • 保証の解除が可能かどうか
  • 買い手側への切り替えが可能かどうか
  • 協議を始める時期と、必要となる資料

協議には時間がかかることがあります。買い手やM&A支援機関とも、対応方針を共有しておきます。


まとめ

M&Aのリスクは、自社の状況を整理し、情報の開示範囲と契約条件を確認することで、多くを軽減できます。

まず取り組めるのは、財務、労務、契約関係の整理です。自社にどのような問題があるのかが分かれば、買い手への説明も、交渉での判断もしやすくなります。そのうえで、判断が難しい事項については、M&A支援機関や弁護士、税理士などの専門家へ早めに相談することが選択肢となります。

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トラストベースでは、M&Aや事業承継を検討している中小企業経営者からのご相談を受け付けています。M&Aを行うか決めていない段階でも、目的や希望条件、今後の選択肢を整理できます。

M&Aでは、どの会社に相談するかだけでなく、実際に誰が担当するかも重要です。トラストベースでは、初回のご相談から相手探し、条件交渉、成約に至るまで、責任を持って対応します。

「まず何から検討すればよいか分からない」という段階でも、お気軽にご相談ください。


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