【買い手向け】M&Aの目的とは?自前での事業成長(オーガニックグロース)との違い

自社の成長や事業の拡大を検討するにあたり、M&A(企業の買収・譲り受け)を選択肢として考える中小企業の経営者が増えています。
一方で、「どのような目的でM&Aに取り組むべきか」「自社にとって本当に適切な手段なのか」と悩まれる方も少なくありません。
本記事では、買い手がM&Aに取り組む主な目的やメリット、自前での事業成長との比較を通じた論点を分かりやすく解説します。
中小企業がM&Aを検討する背景
投資環境が変化している
米中対立や地政学リスクの高まりを受け、世界的にサプライチェーンの再編が進んでいます。経済安全保障の観点から国内投資を重視する動きもみられ、日本市場への投資や関心が高まっています。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の報告によると、2024年末時点の対日直接投資残高は53.3兆円となり、過去最高を更新しました。
こうした環境の変化に対応しながら、技術、人材、供給網などの経営資源を自社だけで構築するには、時間と費用がかかります。他社が培ってきた経営資源を取得し、事業成長を早める手段の一つがM&Aです。
専門家の支援を受けながら検討できる
経営者が、M&Aの手続きや財務・法務の知識を最初からすべて備えている必要はありません。まずは、自社が解決したい経営課題と、M&Aによって実現したい目的を明確にすることが重要です。
実務や手続きを検討する段階では、公的機関や専門家の支援を活用できます。相談先の役割や支援内容を確認し、自社に必要な支援を選ぶことで、選択肢を整理しやすくなります。買い手の相談先は「M&Aの相談先(買い手向け)」で解説しています。
買い手がM&Aに取り組む4つの目的・メリット

M&Aの4つの目的・メリットは、それぞれ独立しているわけではありません。出発点となるのは、対象会社が持つ人材、技術、ノウハウ、顧客基盤などの経営資源の獲得です。
経営資源を一から構築する必要がなくなれば、事業成長までの時間を短縮できる場合があります。取得した経営資源を自社の強みと組み合わせることで、既存事業の強化や事業の多角化にもつなげられます。
経営資源の獲得と時間短縮を手段として、既存事業の強化や事業の多角化を目指すことが、4つの目的・メリットの基本的な関係です。
1. 必要な経営資源を獲得する
M&Aでは、対象会社が培ってきた人材、技術、ノウハウ、設備、顧客基盤などを取得できる場合があります。自社だけでは確保が難しい経営資源を補い、経営基盤を強化できる点がメリットです。
自社の販売網や資金力などと対象会社の経営資源を組み合わせることで、売上の増加や費用の削減などのシナジーが期待できる場合もあります。シナジーの種類は、「M&Aのシナジーとは?」で解説しています。
ただし、取得した経営資源を買収後も維持できるとは限りません。雇用、許認可、契約の引き継ぎ方は、株式譲渡か事業譲渡かによって異なります。株式譲渡では、原則として雇用や契約は対象会社に残ります。一方、事業譲渡では、従業員の個別同意や契約の結び直し、許認可の再取得などが原則として必要です。
経営方針を丁寧に説明し、適切な労働条件を示すなど、人材や取引先との関係を維持する取り組みも必要です。
2. 事業成長までの時間を短縮する
新規事業の立ち上げや新しい地域への進出を自社だけで行う場合、市場調査、店舗や工場の確保、人材の採用・育成などに時間がかかります。
M&Aでは、すでに稼働している事業や組織を取得できる場合があります。事業基盤を一から構築する期間や試行錯誤を減らし、成長までの時間を短縮できる点がメリットです。
ただし、時間短縮の効果を得るには、買収後の運営を円滑に進める必要があります。経営統合の準備が不十分な場合は、手続きや調整にかえって時間がかかることもあります。
3. 既存事業を強化する
同業種の対象会社を買収することで、対象会社が築いてきた営業地域や顧客基盤を活用できる場合があります。自社の営業網と組み合わせれば、市場シェアの拡大や売上機会の増加を目指せます。
取引規模の拡大によって、仕入れ費用の削減や物流の効率化などのスケールメリットが生じる場合もあります。スケールメリットとは、事業規模の拡大によって費用の削減や生産性の向上を図る効果です。
ただし、規模を拡大するだけで期待した効果を得られるとは限りません。自社と対象会社の強みをどのように組み合わせ、何を改善するのかを買収前に具体化することが重要です。 顧客との契約や取引条件について、個別の同意や確認手続きが必要になることもあります。
4. 事業を多角化する
自社とは異なる分野の事業を買収することで、新しい事業領域へ参入できる場合があります。複数の事業を組み合わせることで、単一事業への依存を抑えることにもつながります。
すでに実績のある事業やノウハウを取得できれば、自社だけで新規事業を立ち上げる場合より、参入の負担を抑えられることがあります。
ただし、自社に知見のない分野では、対象会社の事業を適切に評価し、買収後に運営することが難しくなる場合があります。事業を増やすだけでなく、対象会社を管理できる体制と、自社の経営資源との組み合わせを検討する必要があります。
自前での事業成長とM&Aの違い
事業成長の方法には、自社の経営資源を使って成長を図る自前での事業成長(オーガニックグロース)と、他社の株式や事業を取得するM&Aがあります。
どちらか一方が常に優れているわけではありません。自社が持つ経営資源、成長にかけられる時間、投資できる金額などを踏まえて選ぶ必要があります。
| 項目 | 自前での事業成長 | M&A |
|---|---|---|
| 成長スピード | 自社で事業や顧客基盤を構築するため、時間を要する場合がある | 既存の事業・顧客基盤等を取得でき、成長にかかる時間を短縮できる場合がある |
| 経営資源 | 人材・技術・ノウハウ等を自社で育成・構築する | 人材・技術・ノウハウ・知的財産・顧客基盤等をまとめて獲得できる場合がある |
| 投資 | 事業の成長に合わせて段階的に投資しやすい | 株式・事業の取得にまとまった買収資金が必要になる |
| 実行上の課題 | 新規事業の立ち上げや人材育成などに不確実性がある | 適切な買収先の選定やデューデリジェンス、PMIなどが必要になる |
| 向いているケース | 自社に必要な経営資源があり、時間をかけて事業を育てられる場合 | 自社にない経営資源を獲得したい場合や、成長までの時間を短縮したい場合 |
※上記の比較表は一般的な傾向を示したものであり、実際には対象会社の状態や業界環境、買収後の統合プロセス(PMI)などの個別条件によって異なります。
成長スピード
自前での事業成長
顧客基盤の構築には、準備や営業活動の時間が必要です。人材や設備が不足している場合は、採用・育成や設備の発注から稼働までにも時間がかかります。
M&A
既存事業の顧客基盤、人材、設備などを取得できれば、自社で一から構築する場合より、成長までの時間を短縮できることがあります。
経営資源
自前での事業成長
人材、技術、ノウハウ、設備、顧客基盤などを自社で育成・構築します。自社の理念や企業文化、事業方針に合わせて経営資源を整えられる点が特徴です。
一方、不足する人材や技術などを一から確保する場合、採用・育成や研究開発に時間と費用がかかることがあります。
M&A
対象会社が持つ人材、技術、ノウハウ、設備、顧客基盤などを取得できる場合があります。
また、自社の販売網や資金力などと対象会社の経営資源を組み合わせることで、売上の増加や費用の削減などのシナジーが期待できる場合があります。シナジーとは、複数の経営資源を組み合わせて生まれる相乗効果です。
投資
自前での事業成長
事業が一定の目標を達成するたびに、段階的に資金を投じることができます。進捗を確認しながら追加投資を判断し、途中で計画を見直すことも可能です。
M&A
株式や事業の取得には買収資金が必要です。買収規模によっては、まとまった資金を一度に投じるため、自社の財務への影響が大きくなる場合があります。
売り手との合意により、譲渡後の業績達成などの条件に応じて対価を支払うアーンアウトを採用できる場合もあります。
実行上の課題
自前での事業成長
新規事業の立ち上げ、人材の採用・育成、顧客開拓などを自社で進めます。計画どおりに人材や顧客を確保できず、期待した成長を実現できない可能性があります。
一方、事業の進捗を確認しながら、投資規模や計画を段階的に見直せる点が特徴です。
M&A
自社の目的に合う買収先の探索・選定、デューデリジェンス(DD)、条件交渉など、M&A特有の手続きが必要です。デューデリジェンスとは、対象会社の財務・法務・事業などを詳しく調査することです。
買収後には、組織、人事、業務、システムなどを統合するPMIが必要になる場合があります。PMIとは、買収後の経営統合を指します。PMIが計画どおりに進まなければ、期待したシナジーを十分に実現できないことがあります。
向いているケース
自前での事業成長
必要な人材、技術、ノウハウなどを自社で確保でき、時間をかけて事業を育てられる場合に向いています。自社の企業文化や事業方針に沿って、組織や事業基盤を一から構築したい場合にも選択肢になります。
M&A
自社に不足する人材、技術、ノウハウ、顧客基盤などを取得したい場合や、成長までの時間を短縮したい場合に選択肢になります。
ただし、M&Aを実施すれば必ず成長できるわけではありません。買収価格、期待できるシナジー、買収後の運営体制などを確認し、自社で構築する場合と比較して判断することが重要です。
投資効果と回収
自前での事業成長とM&Aのどちらを選ぶ場合も、投資額に対して、どの程度の収益やキャッシュフローを、どれくらいの期間で得られるかを検討する必要があります。
営業利益やフリーキャッシュフローなどの見込みをもとに、投資回収期間や収益性を確認します。M&Aでは買収価格だけでなく、買収後の追加投資やPMIにかかる費用も含めて、期待する投資効果を得られるかを判断します。
FAQ
自前での事業成長とM&Aは、どのように選べばよいですか?
自社に不足している経営資源と、成長にかけられる時間、投資できる金額を整理して比較します。
必要な人材や技術を自社で確保でき、時間をかけて事業を育てられる場合は、自前での事業成長が選択肢になります。一方、自社にない人材・技術・顧客基盤などを取得したい場合や、成長までの時間を短縮したい場合は、M&Aが選択肢になります。
どちらの場合も、投資額に対して、どの程度の収益をどれくらいの期間で得られるかを確認することが大切です。
異業種の会社を買収する場合は、何に注意すればよいですか?
自社に知見のない分野では、対象会社の事業を適切に評価することや、買収後に運営することが難しくなる場合があります。
事業の数を増やすことだけを目的にせず、対象会社を管理できる体制を整えられるか、自社の販売網や資金力などとどのように組み合わせるかを、買収前に検討しておくことが大切です。
買収資金を一度に支払うのが難しい場合、支払い方法を工夫できますか?
売り手との合意によって、支払い条件を工夫できる場合があります。その一つが、譲渡後の業績達成などの条件に応じて対価の一部を支払うアーンアウトです。ただし、どのような条件で合意できるかは売り手との交渉によって決まります。支払い条件の設計や資金調達は、M&A専門業者(M&A仲介・FA)や弁護士などに相談しながら検討します。
まとめ|M&Aの目的を明確にして、自社に合う成長方法を選ぶ
M&Aは、対象会社の経営資源を取得し、既存事業の強化や事業の多角化を目指す方法です。経営資源を一から構築する時間を短縮できる一方で、まとまった買収資金や買収後の経営統合が必要になる場合があります。
まずは自社の経営課題とM&Aの目的を明確にし、自前での事業成長と比較することが検討の第一歩です。 買収価格、取得したい経営資源、買収後の運営体制まで整理したうえで、自社に合う方法を判断しましょう。
M&Aを進める方向性が固まった後に注意したいリスクは「買い手向けM&Aのリスク」で解説しています。



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