M&Aのアドバイザリー契約とは?主な内容と締結前に確認したい7つのポイント

M&Aのアドバイザリー契約とは?主な内容と締結前に確認したい7つのポイント。相談・説明、内容の確認、契約の締結の流れを3つのアイコンで示した画像

M&Aのアドバイザリー契約とは、M&A専門業者(M&A仲介・FA)に支援を依頼するときに結ぶ業務委託契約です。手数料や支援の範囲のほか、他社への相談や直接交渉の可否も決まるため、締結前の確認点を解説します。

M&Aのアドバイザリー契約とは

M&Aアドバイザリーとは

M&Aアドバイザリーとは、M&Aを進める会社に対して、専門的な助言や手続きの支援を行うことです。主に、M&A仲介やFA(フィナンシャル・アドバイザー)が提供します。

支援の内容は、相手探し、企業価値評価、条件交渉の調整、契約書の取りまとめの支援、クロージング(株式や事業の引渡しと代金の支払い)までの進行管理などです。ただし、どの工程まで支援するかは、M&A専門業者によって異なります。すべての工程を支援する業者もあれば、相手探しなど一部の工程に絞っている業者もあります。

アドバイザリー契約の意味

アドバイザリー契約とは、M&A専門業者にM&Aの支援を依頼するための業務委託契約です。

契約の名称はさまざまです。中小M&Aガイドラインでは、「仲介契約」「FA契約」のほか、「業務委託契約」「アドバイザリー契約」などと呼ばれることもあるとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

名称が同じでも、契約の中身は業者ごとに違います。名称で判断せず、誰の立場で、何を、いくらで支援するのかを契約書で確認することが大切です。

仲介契約とFA契約の違い

アドバイザリー契約は、大きく仲介契約とFA契約に分かれます。M&A仲介は売り手と買い手の双方と契約し、両者の間に立って支援します。一方、FAは売り手か買い手の片方とだけ契約し、その依頼者の立場で支援します。

契約の相手が違うため、手数料を受け取る相手や交渉の進め方も変わります。詳しくは「M&A仲介とFAの違いとは?立場・手数料・選び方を分かりやすく解説」で解説しています。

アドバイザリー契約を結ぶタイミングと流れ

アドバイザリー契約は、M&Aの目的と条件を整理し、相談先を決めた段階で結びます。M&Aの全体の流れの中では、検討・準備の段階の「専門家への相談と契約」に当たります。全体の流れは「M&Aの流れとは?検討から成立後まで、進め方を順を追って解説」で解説しています。

1. 初回相談と提案

まず、M&A専門業者に相談し、M&Aの目的や希望する条件を伝えます。契約前の段階でも、目的や条件の整理を手伝ってもらったり、簡易的な企業価値評価や進め方の提案を受けたりすることがあります。

相談の段階で決算書などの資料を渡す場合は、秘密保持の取り決めを確認しておきましょう。秘密保持については「M&Aの秘密保持契約(NDA)とは?」で解説しています。

2. 重要事項の説明を受ける

契約を結ぶ前に、M&A専門業者から契約の重要事項について説明を受けます。

中小M&Aガイドラインでは、仲介者・FAに対して、契約締結前に重要事項を記載した書面を交付し、その内容を説明することが求められています。説明は契約を結ぶ権限を持つ人(法人の場合は代表者など)に対して行い、依頼者に十分な検討時間を与えるべきとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

説明を受けたら、その場で契約を決めず、書面を持ち帰って内容を確認しましょう。分からない点は契約前に質問します。業務の内容や報酬の妥当性について、他の支援機関に意見を求めること(セカンドオピニオン)も有効とされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

3. 契約の締結と支援の開始

内容に納得したら、契約を結びます。契約締結後は、契約で定めた業務範囲に従って、候補先の探索やM&Aの具体的な検討を進めます。

アドバイザリー契約の主な内容

アドバイザリー契約で定められる主な項目は次のとおりです。中小M&Aガイドラインが、契約の主なポイントや契約前に説明すべき事項として挙げている項目をもとに整理しています。

項目 契約で決まること
業務形態 仲介かFAか
業務範囲 どの工程まで支援するか、提供しない業務は何か
手数料
  • 手数料の種類と計算方法
  • 最低手数料
  • 支払時期
  • 手数料以外にかかる費用
秘密保持
  • 依頼者とM&A専門業者の秘密保持義務
  • M&A専門業者が情報を利用・開示できる範囲
  • 専門家などに相談できる範囲
専任条項 他のM&A専門業者への依頼やセカンドオピニオンが認められるか
直接交渉の制限 M&A専門業者を通さずに候補先と交渉できない範囲
テール条項 契約終了後に手数料が発生する期間と相手
契約期間・解除 契約期間、更新、中途解約の条件
責任(免責) 損害賠償責任が発生する要件と範囲

(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)

業務形態は「M&A仲介とFAの違い」で解説しています。以下では、残りの項目のうち、締結前に特に確認したい7つのポイントを説明します。

締結前に確認したい7つのポイント

1. 業務範囲

まず、どの工程まで支援してもらえるのかを確認します。

業務範囲には、たとえば次のようなものがあります。

  • 候補先の探索
  • 企業価値評価
  • 条件交渉
  • デューデリジェンス(DD)の進行支援
  • 最終契約の締結支援
  • クロージングまでの進行管理

確認したいのは、M&A専門業者が自ら行う業務と、外部の専門家に依頼する業務の区別です。たとえばデューデリジェンス(買収前に、対象会社の財務・法務などを詳しく調べる手続き)は、買い手が公認会計士や弁護士などの専門家に依頼して行うことがあります。その場合、M&A専門業者は日程の調整や資料の準備などの補助を担います。

中小M&Aガイドラインでは、仲介者・FAが自らデューデリジェンスを行わない場合は、その旨と、他の支援機関への依頼が必要であることを明確に説明することが求められています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

外部の専門家に依頼すれば、その費用は別にかかります。また、PMI(買収後の統合作業)などクロージング後の支援を受けられるかも、あわせて確認しておきましょう。

2. 手数料

次に、手数料の総額と、支払うタイミングを確認します。

手数料には、着手金、月額報酬、中間報酬、成功報酬などがあります。成功報酬の料率だけでなく、次の点も確認しましょう。

  • 最低手数料はいくらか
  • 既に支払った着手金などを成功報酬から差し引くか
  • 交通費などの実費を別に請求されるか

M&A仲介の場合は、相手方から受け取る手数料についても説明を受けることが大切です。手数料の種類と計算方法は「M&Aの手数料とは?種類・成功報酬の仕組みを分かりやすく解説」で解説しています。

3. 秘密保持

秘密保持条項では、顧問税理士や金融機関などに相談できるかを確認します。

アドバイザリー契約には、M&A専門業者と依頼者の双方に秘密保持義務を課す条項が設けられるのが通常です。M&Aの検討を外部に漏らさないために必要な条項ですが、内容によっては、顧問税理士や弁護士、金融機関に相談しにくくなることがあります。

中小M&Aガイドラインでは、士業などの専門家や事業承継・引継ぎ支援センターなどへの情報共有が認められているかを確認しておくことが望ましいとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

あわせて、M&A専門業者が受け取った情報をどの範囲で利用・開示できるかも確認しましょう。特に、候補先に情報を開示するときに、依頼者の意向が反映される内容になっているかが大切です。候補先への開示の進め方は、「ノンネームシートとは?」「M&Aの秘密保持契約(NDA)とは?」で解説しています。

4. 専任条項

専任条項とは、契約期間中、他のM&A専門業者に重ねて依頼することを制限する条項です。1社だけに依頼する形を「専任契約」、複数社に依頼できる形を「非専任契約」と呼ぶことがあります。

専任契約には、情報の管理がしやすく、窓口が一つにまとまる利点があります。中小M&Aガイドラインでも、専任条項には一定の合理性が認められるとされています。同じ候補先に複数の業者から打診が重なることや、情報が広がることを防ぐ観点からです。

一方で、専任条項の範囲が広すぎると、業者の助言に疑問を持ったときに他社の意見を聞けなくなることがあります。ガイドラインでは、専任条項の対象範囲は可能な限り限定すべきとされています。依頼者が意見を求めたい部分を明確にしたうえで、妨げる合理的な理由がない場合は、セカンドオピニオンを認めるべきとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

また、専任条項に長く縛られると、適切な時期に他の業者へ依頼できなくなります。ガイドラインでは、専任条項を設ける場合の契約期間は、最長でも6か月〜1年以内を目安とすべきとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

契約前に、何が禁止されるのか(他社への依頼か、セカンドオピニオンか)を具体的に確認しましょう。

5. 直接交渉の制限

直接交渉の制限とは、依頼者がM&A専門業者を通さずに、候補先と直接交渉したり接触したりすることを禁じる条項です。交渉の窓口を一つにまとめ、交渉を円滑に進める目的があります。

ただし、制限の範囲が広すぎると、自分で見つけた相手とM&Aの話ができなかったり、取引先との普段の商談にまで影響したりするおそれがあります。中小M&Aガイドラインでは、制限の範囲について次のように限定すべきとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

確認する点 ガイドラインの考え方
対象となる相手 M&A専門業者が関与・接触し、紹介した候補先に限る(依頼者が自ら候補先を探さないことなどを明示的に了解している場合を除く)
対象となる交渉 M&Aに関する目的の交渉に限る
制限が続く期間 アドバイザリー契約が終了するまで

なお、アドバイザリー契約とは別に結ぶ秘密保持契約などにも、同じような条項が設けられていることがあります。あわせて確認しましょう。

6. テール条項

テール条項とは、M&A専門業者との契約終了後も、一定の条件を満たす相手と一定期間内にM&Aが成立した場合に、手数料が発生することを定めた条項です。この一定期間を「テール期間」と呼びます。中小M&Aガイドラインは、主に売り手がM&A専門業者と結ぶ契約を念頭に説明しています。

テール条項が想定しているのは、業者が時間と費用をかけて成約の直前まで進めたのに、売り手が手数料を避けるために契約を終了させ、その後に同じ相手とM&Aを行うケースです。

ただし、期間が長すぎたり、対象となる相手が広すぎたりすると、契約終了後に、以前の業者が紹介していない相手とM&Aを行う場合にまで手数料を請求されるおそれがあります。その結果、M&Aを進めることをためらったり、断念したりする可能性があります。中小M&Aガイドラインでは、テール条項について次の考え方が示されています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

  • テール期間は、最長でも2年〜3年以内を目安とすることが望ましい
  • 対象は、M&A専門業者が関与・接触し、依頼者に紹介した相手に限定すべき。ノンネームシートやリストを示しただけの相手は対象とせず、少なくともネームクリア(売り手の同意を得て、秘密保持契約を結んだ候補先に社名を明かすこと)が行われた相手に限定すべき
  • 専任条項がない契約で複数の業者から同じ相手を紹介され、別の業者を選んだ場合、選ばれなかった業者はテール条項を根拠に手数料を請求すべきではない

契約前に、テール期間の長さと、どのような相手が対象になるのかを確認しましょう。

7. 契約期間・解除・免責

最後に、契約を終了できるか、問題が起きたときの責任はどうなるかを確認します。

確認したいのは次の点です。

  • 契約期間はどのくらいか
  • 期間満了後に自動で更新されるか
  • 依頼者の判断で途中で解約できるか、解約の条件は何か

中小M&Aガイドラインでは、専任条項を設ける場合、依頼者が任意の時点で中途解約できることを明記する条項なども設けることが望ましいとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。途中で解約した場合も、契約終了後にテール条項が適用されることがあります。解約の条件とテール条項は、あわせて確認しましょう。

また、契約には、損害賠償責任が発生する要件や賠償の範囲を定める条項(責任・免責に関する条項)が設けられることがあります。M&A専門業者の関与によって損害が生じた場合に、適切に負担を求められる内容になっているかを確認しておくことが望ましいとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

契約前に使える公的な制度・資料

M&A支援機関登録制度に登録しているか

依頼先が「M&A支援機関登録制度」に登録しているかも、契約前に確認しておきたい点です。この制度は、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言するなどした仲介・FAが登録を受けられる国の制度です(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

M&A支援機関登録制度のホームページでは、登録しているM&A支援機関の手数料の算定基準や最低手数料なども確認できます。ただし、登録しているかどうかだけで判断せず、ここまでの7つのポイントとあわせて確認しましょう。

チェックリストと契約書サンプル

中小企業庁は、契約前の確認に使える資料を公表しています。

M&A専門業者から示された契約書や重要事項説明書をこれらと見比べ、違う点を質問すると、契約の内容を理解しやすくなります。

FAQ

アドバイザリー契約書のひな形はありますか?

中小M&Aガイドライン(第3版)の参考資料7に「仲介契約書(M&A仲介業務委託契約書)サンプル」が掲載されています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書サンプル」/中小企業庁)。M&A専門業者に依頼する場合、契約書は業者が用意するのが通常です。サンプルは、業者から示された契約書と見比べて、違う点や分からない点を質問するための材料として使えます。

契約した後に、別のM&A専門業者に切り替えられますか?

契約の内容によります。専任条項がある場合、契約期間中は他のM&A専門業者への依頼が制限されることがあります。別の業者への切り替えを検討する際は、契約期間、中途解約の条件、テール条項を確認する必要があります。契約終了後も、テール条項によって手数料が発生する場合があるため注意しましょう。

契約書の内容を顧問税理士や弁護士に見てもらってもよいですか?

契約前であれば、見てもらうことができます。中小M&Aガイドラインでも、業務の内容や報酬の妥当性について、必要に応じて事業承継・引継ぎ支援センターを含む他の支援機関に意見を求めること(セカンドオピニオン)は有効とされています。契約後にセカンドオピニオンを受けたい場合は、秘密保持に関する条項などの内容をよく確認し、元の業者とよく相談することとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

まとめ|契約で「何を任せ、何が制限されるか」を確かめてから結ぶ

M&Aのアドバイザリー契約は、M&A専門業者にM&Aの支援を依頼するための業務委託契約です。名称は業者によってさまざまなため、名称ではなく中身で判断しましょう。

締結前には、業務範囲と手数料に加えて、依頼者の自由を制限する条項を確認することが大切です。専任条項、直接交渉の制限、テール条項は、契約期間や中途解約の条件とあわせて確認しましょう。

次の行動としては、依頼先がM&A支援機関登録制度に登録しているかを確認し、重要事項説明書を受け取って中小企業庁のチェックリストで内容を確認しましょう。分からない点は契約前に質問し、必要に応じて顧問税理士や弁護士にも意見を聞きましょう。