M&Aの意向表明書(LOI)とは?出す時期・記載内容と、売り手・買い手の確認点

M&Aの意向表明書(LOI)とは?出す時期・記載内容と、売り手・買い手の確認点。トップ面談、意向表明書、基本合意書の流れを3つのアイコンで示した画像

意向表明書とは、M&Aの買い手候補が、買収価格の目安や主な条件を売り手に示す書面のことで、法的拘束力を持たないことが多いです。意向表明書を出す時期、主な記載内容、基本合意書との違い、確認したい点を解説します。

M&Aの意向表明書とは

意向表明書の意味と目的

意向表明書とは、M&Aの買い手候補が、買収価格の目安や主な条件を売り手に書面で示し、交渉を進めたい意思を伝える書面です。

売り手にとって意向表明書は、買い手候補がどのくらい本気で検討しているか、どのような条件を考えているかを知るための資料です。複数の買い手候補から受け取った場合は、条件を比べて、交渉を進める相手を選ぶ判断材料になります。

買い手にとっては、自らの希望条件を早めに示し、売り手の希望とのずれを確かめる手段です。書面で条件を示すことで、口頭のやりとりだけでは生じやすい認識の違いを減らせます。

LOIとの関係|呼び方の注意点

意向表明書は「LOI(レター・オブ・インテント)」とも呼ばれます。ただし、LOIという名称は、基本合意書を指す場合にも使われます。

名称だけで判断せず、買い手が一方的に希望条件を示す書面なのか、売り手と買い手が合意する書面なのかを確認することが大切です。本記事では、前者を「意向表明書」、後者を「基本合意書」と呼んで説明します。

なお、中小M&Aガイドラインでは、基本合意書を「LOI(Letter Of Intent)」「MOU(Memorandum Of Understanding)」ともいう、とされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。M&A専門業者(M&A仲介・FA)や相手から「LOI」という言葉が出たときは、どちらの書面を指しているかを確認しましょう。

M&Aのどの段階で出されるのか

意向表明書は、M&Aの相手探しと交渉の段階で出されます。M&A全体の流れの中では、次の5〜8のうち、8の前半にあたります。全体の流れは、「M&Aの流れとは?検討から成立後まで、進め方を順を追って解説」で解説しています。

M&Aのプロセスを示す図
  1. 候補先の選定と打診:M&A専門業者が、売り手の希望を踏まえて買い手候補を選び、社名を伏せた資料(ノンネームシート)で関心があるかを確かめる
  2. 秘密保持契約の締結と企業概要書の開示:関心を示した候補先のうち、売り手が開示に同意した相手と秘密保持契約を結び、社名を含む企業概要書を開示する
  3. トップ面談:企業概要書を読んでさらに関心を持った場合に、売り手と買い手候補の経営者同士が直接会う
  4. 意向表明と基本合意書の締結:買い手候補が意向表明書で買収価格の目安や主な条件を示し、合意できれば基本合意書を結ぶ

本記事では、基本合意書の前に出す意向表明書を中心に説明します。一般的には、トップ面談の後、基本合意書を結ぶ前に、買い手候補がM&A専門業者を通じて売り手に提出します。ただし、時期や形式は案件によって異なります。

なお、中小M&Aガイドラインでは、デューデリジェンス(DD)の前に暫定的な希望条件を示す書面を第一次意向表明書、デューデリジェンスの結果を踏まえて最終的な希望条件を示す書面を第二次意向表明書(最終意向表明書)などと称することがあるとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

デューデリジェンスとは、買い手が弁護士や公認会計士などに依頼して、対象会社の財務・法務などのリスクを詳しく調べることです。一般的に、基本合意書を結んだ後、最終契約の前に行います。

意向表明書の主な記載内容

主な記載項目

中小M&Aガイドラインは、意向表明書の統一書式を示していません。ガイドラインの参考資料7には各種契約書等のサンプルが掲載されていますが、意向表明書は含まれていません(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」/中小企業庁、2025年12月15日時点版)。実務では、案件に応じて内容を調整して作成します。主な記載項目の一例は次のとおりです。

項目 主な内容
買収の目的 買収によって実現したいこと、想定するシナジー
買収の方法と対象 株式譲渡か事業譲渡か、取得する株式の数や事業の範囲
買収価格の目安 金額と、その前提(前提とした財務数値、評価の基準日など)
対価の支払方法 一括か分割か、条件付きの支払いの有無
資金の調達方法 自己資金、金融機関からの借入など
役員・従業員の処遇 雇用の継続、待遇、役員の扱い
経営者の引継ぎ 売り手の経営者に求める役割と期間
経営者保証の扱い 経営者保証の解除の考え方
デューデリジェンスとスケジュール 確認したい事項、基本合意書から最終契約までの予定
独占交渉権 希望の有無と期間
その他 有効期限など

買収の方法の違いは「株式譲渡と事業譲渡の違いとは?引き継ぐ範囲・手続き・税金と選び方」、シナジーは「M&Aのシナジーとは?種類と譲渡価格との関係」で解説しています。

条件付きの支払いとは、たとえば、M&Aの後の業績が一定の水準に達した場合に、追加で代金を支払う方法です。「アーンアウト」とも呼ばれます。支払われるかどうかがM&Aの後の業績によって変わるため、確定した金額と分けて確認します。

経営者保証は、M&Aによって解除できます。ただし、株式を譲渡するだけで自動的に解除されるわけではありません。買い手がどのように解除する考えかを意向表明書の段階で確かめ、金融機関などとの協議や最終契約での取り決めにつなげます。

価格の書き方|金額に前提条件が付くことがある

意向表明書の段階では、買い手候補は企業概要書やトップ面談などで得た情報をもとに価格を考えます。当社の支援経験では、価格は幅ではなく特定の金額で示すことが通常です。そのうえで、「デューデリジェンスで重大な問題が見つからないこと」などの前提を付ける場合があります。

前提が変われば、最終的な譲渡価格が変わる可能性があります。企業価値評価による評価額と、実際に合意する譲渡価格の関係は、「企業価値評価とは?会社の価値の測り方とM&Aで値段が決まる仕組み」で解説しています。

意向表明書の法的拘束力

法的拘束力を持たないことが多い

意向表明書は、一般的に買い手の希望条件を示す書面です。中小M&Aガイドラインでは、意向表明書について、基本的には法的拘束力を持たないことが多いとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

当社の支援経験でも、意向表明書そのものに法的拘束力を持たせることは通常ありません。独占交渉権や秘密保持義務などに法的拘束力を持たせるのは、通常、次の段階で結ぶ基本合意書です。

ただし、売り手が応諾書を出す場合など、意向表明書をきっかけに法的な効果が生じることがあります。名称だけで判断せず、内容を確認することが大切です。

応諾書を出すときは注意する

注意したいのは、売り手が意向表明書に対して応諾書(意向表明書の内容を受け入れることを示す書面)を出す場合です。応諾書を出すと、合意が成立したものとして扱われることがあります。中小M&Aガイドラインでも、入札手続を行う場合などに、意向表明書に対する応諾書を売り手が提出することで、基本合意とほぼ同様の合意を結んだものとして扱うこともあるとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

応諾書に署名する前に、何に合意することになるのかを、M&A専門業者や弁護士に確認しましょう。

意向表明書と基本合意書の違い

意向表明書と基本合意書の主な違いは次のとおりです。

比較の観点 意向表明書 基本合意書
作成する人 買い手候補が作成し、売り手に提出する 売り手と買い手が合意して締結する
時期 トップ面談の後、基本合意書の前(デューデリジェンス後に出す書面を「第二次意向表明書(最終意向表明書)」と呼ぶこともある) 特定の買い手に絞った後、デューデリジェンスの前(基本合意書を締結しない場合もある)
目的 買い手候補が希望条件と、交渉を進めたい意思を示す 交渉相手を絞り、その時点での両者の了解事項を確認する
法的拘束力 基本的には持たないことが多い 基本的に法的拘束力はない。ただし、独占交渉権や秘密保持義務などには拘束力を認めることが通常

中小M&Aガイドラインでは、基本合意書は、売り手が特定の買い手に絞って交渉を行うことを決めた場合に、その時点の両者の了解事項を確認する書面とされています。また、基本的に法的拘束力はないものの、買い手の独占交渉権や秘密保持義務などについては、法的拘束力を認めることが通常とされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

売り手が意向表明書で確認したい3つのポイント

売り手にとって意向表明書は、交渉を進める相手を選ぶための大切な判断材料です。

1. 買収価格と、その前提条件

金額だけでなく、その金額がどのような前提で示されているかを確認します。特に、業績や資産・負債など、価格に大きく影響する前提条件を確かめましょう。デューデリジェンスの結果によって、提示された価格が変更される場合があります。

あわせて、支払方法も確認します。一括で支払われるのか、条件付きの支払いが含まれるのかによって、確実に受け取れる金額が変わります。

2. 価格以外の条件

従業員の雇用と待遇、社名や事業を続けるかどうか、売り手の経営者に求める引継ぎの役割と期間、経営者保証の解除の考え方を確認します。

トップ面談で聞いた買い手の考えが、意向表明書に反映されているかも確かめましょう。トップ面談については、「M&Aのトップ面談とは?目的・流れと、売り手・買い手が確認したいポイント」で解説しています。

3. 複数の意向表明書を同じ観点で比べる

複数の買い手候補から意向表明書を受け取った場合は、同じ項目で並べて比べます。たとえば、次の観点があります。

  • 買収価格と、その前提条件
  • 支払方法と、条件付きの支払いの有無
  • 資金調達の確実さ
  • 従業員の処遇と、経営者の引継ぎの条件
  • スケジュールと、独占交渉権の期間

価格の高さだけで相手を選ばないことが大切です。分からない点や、調整してほしい条件がある場合は、M&A専門業者を通じて買い手候補に質問や調整を求めることができます。

買い手が意向表明書を出すときの3つのポイント

買い手にとって意向表明書は、売り手に希望条件を正式に示す重要な書面です。

1. 価格の根拠と前提を明確にする

企業概要書などの情報をもとに、根拠を説明できる価格を示します。価格の前提とした財務数値や、デューデリジェンスで確認したい事項は、具体的に書いておきましょう。

前提を明確にしないまま高い価格を示し、後から大きく引き下げると、売り手の信頼を損なうおそれがあります。

2. 売り手が重視している点に答える

トップ面談で聞いた、売り手がM&Aを考えた理由や、従業員・取引先への思いに対して、買い手としての考えを書きます。たとえば、従業員の雇用を大切にしている売り手には、買収後の雇用の方針を具体的に示すことが、信頼につながります。

3. 社内の承認と資金の見通しを確かめておく

提出する前に、社内でどこまで承認を得ているか(取締役会の承認が必要かなど)と、資金調達の見通しを確認しておきましょう。資金の裏付けがはっきりしているほど、売り手は安心して交渉を進められます。

意向表明書の作成は、M&A専門業者に支援を依頼できます。中小M&Aガイドラインでも、M&A専門業者が提供する主な業務の例として、買い手が売り手に提示する意向表明書の作成支援が挙げられています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

FAQ

意向表明書に決まった書式はありますか?

中小M&Aガイドラインは、意向表明書の統一書式を示していません。実務では、案件に応じて内容を調整して作成します。参考資料7の契約書等サンプルにも、意向表明書は含まれていません。主な記載項目は、買収の目的、買収の方法と対象、買収価格の目安とその前提、支払方法、資金の調達方法、役員・従業員の処遇、今後のスケジュールなどです。

意向表明書の金額から、最終的な譲渡価格が変わることはありますか?

あります。意向表明書の金額は、その時点で買い手候補が得ている情報をもとにした目安です。デューデリジェンスで新たな事実が分かった場合や、前提とした条件が変わった場合には、譲渡価格が変わることがあります。意向表明書を受け取ったら、金額だけでなく、どのような前提で示されているかを確認しておきましょう。

意向表明書を出した後に、取り下げることはできますか?

取り下げられる場合があります。ただし、売り手が応諾書を出しているかなどによって扱いが異なります。取り下げる前に書面を確認し、M&A専門業者や弁護士に相談したうえで、早めに伝えましょう。

意向表明書を受け取ったら、必ず応じなければいけませんか?

意向表明書は基本的に法的拘束力を持たないことが多い書面です。受け取った売り手は、内容に同意できない場合、条件の調整を求めることや、応諾書を出さずに交渉を終えることが考えられます。対応を決める前に、書面やこれまでの合意内容を確認し、M&A専門業者や弁護士に相談しましょう。

まとめ|意向表明書は、交渉相手を選ぶための大切な判断材料

意向表明書は、M&Aの買い手候補が、買収価格の目安や主な条件を売り手に書面で示すものです。法的拘束力を持たないことが多いものの、売り手が応諾書を出すと、基本合意とほぼ同様の合意として扱われることがあるため、内容を確認することが大切です。LOIという言葉は基本合意書を指すこともあるため、名称ではなく書面の中身で判断しましょう。

売り手は、意向表明書を受け取ったら、価格とその前提条件、価格以外の条件を同じ観点で比べ、分からない点はM&A専門業者に確認しましょう。買い手は、価格の根拠と前提を明確にし、売り手が重視している点に答える内容にすることが大切です。

M&A全体の流れは「M&Aの流れとは」、意向表明書の前に行うトップ面談は「M&Aのトップ面談とは」で解説しています。