M&Aの秘密保持契約(NDA)とは?結ぶタイミングと主な内容、売り手・買い手の確認点

M&Aの秘密保持契約(NDA)とは?結ぶタイミングと主な内容、売り手・買い手の確認点。結ぶタイミング、主な内容、売り手・買い手の確認点を3つのアイコンで示した画像

M&Aの秘密保持契約(NDA)とは、社名や財務などの情報を外部に漏らさないことを約束する契約で、買い手候補に社名や詳しい情報を開示する前に結びます。本記事では、秘密保持について取り決める場面と主な内容、売り手・買い手が確認する点を解説します。

秘密保持契約(NDA)とは

秘密保持契約の意味

秘密保持契約とは、受け取った情報を外部に漏らさないことを約束する契約です。英語の「Non-Disclosure Agreement」を略して「NDA」とも呼ばれます。中小M&Aガイドラインでは「CA」とも呼ばれるとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。本記事では「秘密保持契約」と呼びます。

M&Aでは、売り手が買い手候補に、決算書や取引先、従業員の情報など、外部に公開していない情報を渡します。秘密保持契約は、こうした情報を受け取った側が、M&Aの検討以外に使わず、第三者に漏らさないことを約束するものです。

M&Aで秘密保持契約が重要な理由

M&Aを検討していることが外部に漏れると、従業員や取引先、金融機関に不安が広がることがあります。従業員の退職や取引の見直しにつながれば、会社の価値が下がり、M&Aそのものが進まなくなるおそれもあります。

中小M&Aガイドラインでも、情報の漏えいがあった場合にはM&Aが頓挫してしまうことがあり、秘密保持の観点は重要であるとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

秘密保持契約は、情報を渡す前に、受け取る側に情報の扱い方を約束してもらうためのものです。情報漏えいのリスクと対策の全体像は、「【売り手向け】M&Aにおけるリスクとは?」で解説しています。

秘密保持の取り決めが出てくる3つの場面

M&Aでは、買い手候補と秘密保持契約を結ぶだけでなく、M&A専門業者(M&A仲介・FA)との契約や基本合意書にも、秘密保持に関する取り決めが設けられます。

場面 相手 取り決めの形
M&A専門業者に依頼するとき M&A専門業者 仲介契約・FA契約の中の秘密保持条項
買い手候補に社名を明かすとき 買い手候補 秘密保持契約
基本合意書を結ぶとき 交渉を進める買い手 基本合意書の中の秘密保持義務

1. M&A専門業者に依頼するとき

M&Aの相談や支援をM&A専門業者(M&A仲介・FA)に依頼するときは、仲介契約やFA(フィナンシャル・アドバイザー)契約を結びます。秘密保持の取り決めは、独立した契約ではなく、これらの契約の中に秘密保持条項として含められることが多いとされています。M&A専門業者に秘密保持の義務を課すとともに、依頼者にも同じ義務を課す条項が設けられるのが通常です(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

仲介契約・FA契約では、秘密保持条項のほかに、専任条項やテール条項なども確認します。詳しくは「【売り手向け】M&Aの相談先は?」「M&A仲介とFAの違いとは?」で解説しています。

2. 買い手候補に社名を明かすとき

一般に「M&Aの秘密保持契約」と呼ばれるのは、この場面で売り手と買い手候補が結ぶ契約です。買い手候補は、社名を伏せた資料(ノンネームシート)を見て関心を持った場合に、より詳しい情報を受け取るために秘密保持契約を結びます。

買い手候補に社名や詳しい情報を開示する場合は、原則として事前に秘密保持契約を結びます。中小M&Aガイドラインでは、社名を明かすことは、売り手の同意を得て、候補先と秘密保持契約を結んだうえで行う必要があるとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。流れは次のとおりです。

  1. 買い手候補が、ノンネームシートを見て関心を示す
  2. 売り手が、その相手に社名を明かすことに同意する
  3. 売り手と買い手候補が、秘密保持契約を結ぶ
  4. 社名を明かし(ネームクリア)、企業概要書などの詳しい資料を開示する

M&A専門業者に依頼している場合、秘密保持契約書はM&A専門業者が用意するのが通常です。ノンネームシートは「ノンネームシートとは?」、ネームクリアと企業概要書は「企業概要書(IM)とは?」で解説しています。

3. 基本合意書を結ぶとき

交渉相手を1社に絞り、主な条件が固まってくると、基本合意書を結びます。基本合意書は、その時点で売り手と買い手が了解している事項を確認する書面です。

基本合意書は基本的に法的拘束力がないものの、独占交渉権や秘密保持義務などについては、法的拘束力を認めることが通常とされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。交渉をやめた後も、契約で定められた期間は秘密保持義務を守る必要があります。

秘密保持契約の主な内容

秘密保持契約に何を定めるかは、法令やガイドラインで決まっているわけではなく、契約ごとに異なります。ここでは、中小M&Aガイドラインの参考資料に掲載されている「秘密保持契約書サンプル」を例に、主な内容を紹介します。このサンプルは、売り手と買い手候補が直接結ぶ場合を前提としています。

項目 主な内容 サンプルでの例
秘密情報の範囲 何を秘密情報とするか
  • 相手から開示を受けた情報
  • 契約を結んだ事実
  • 交渉の経緯や内容
  • すでに公知の情報などは除く
使用目的 何のために使ってよいか 契約の目的(M&Aの検討)以外には使わない
開示できる相手 例外として情報を伝えてよい相手
  • 自社の役員・従業員
  • 弁護士、公認会計士、税理士などのアドバイザー
  • 法令に基づいて求められた公的機関
  • 経営者保証について相談する金融機関
返還 受け取った資料の扱い 相手から求められたら、写しを含めて速やかに返還する
有効期間 契約がいつまで効力を持つか
  • 有効期間は2年(申し出がなければ1年ずつ延長)
  • 秘密保持の義務は、有効期間の満了後も3年間続く
損害賠償 違反したときの扱い 違反によって相手に生じた損害を賠償する

(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」/中小企業庁)

期間などの数字はサンプルでの一例であり、実際の契約ごとに異なります。

特に見落としやすいのが、秘密情報の範囲です。サンプルでは、受け取った資料だけでなく、秘密保持契約を結んだ事実や交渉の経緯も秘密情報に含まれています。「M&Aを検討している」ということ自体が、守るべき情報になるということです。

売り手が秘密保持契約で確認すること

士業や金融機関への相談が妨げられないか

M&Aを進める中で、顧問の税理士や弁護士に意見を聞きたい場面や、経営者保証について金融機関に相談したい場面があります。秘密保持条項の内容によっては、こうした相談が契約違反にならないか、確認が必要になります。

中小M&Aガイドラインでは、M&A専門業者との契約にある秘密保持条項について、弁護士・公認会計士・税理士などの専門家や、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的な相談窓口への情報共有が許されているかを確認しておくことが望ましいとされています。経営者保証について金融機関などに相談する場合は、相談先を秘密保持条項の対象から除外したうえで行うことが求められています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

前述のサンプルでも、専門家への開示や、経営者保証について金融機関に相談する目的での開示を、例外として認めています。契約を結ぶ前に、相談したい専門家や金融機関に情報を伝えてよいかを確認しておきましょう。

誰に社名を明かすかを自分で決める

社名を明かす相手は、原則として相手ごとに売り手が個別に同意して決めます。早く相手を見つけたい場合などに、一定の基準のもとでM&A専門業者に相手を選んでもらう方法もあります。その場合も、相手との秘密保持契約を結んだうえで社名を明かすこととされています。ただし、希望しない相手に社名が伝わるリスクがあるため、売り手がそのリスクを理解したうえで判断する必要があります(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

取引先や同業他社など、社名を明かしたくない相手がいる場合は、早めにM&A専門業者に伝えておきましょう。

社内で話す範囲を先に決める

秘密保持契約を結んでも、売り手側の社内や家族など、契約の相手方以外からの情報漏えいを直接防げるわけではありません。M&Aを検討していることを、誰に、いつ伝えるかをあらかじめ決めておくことが重要です。

例えば、資料の準備を手伝ってもらう経理担当者には早い段階で伝える一方、その他の従業員や取引先には、条件が固まってから伝えるといった方法があります。従業員や取引先に伝える時期の考え方は、「【売り手向け】M&Aにおけるリスクとは?」で解説しています。

買い手が秘密保持契約で確認すること

社内で共有できる範囲

買い手は、受け取った情報を、買収の検討に関わる役員や従業員、顧問の専門家と共有する必要があります。また、買収資金について金融機関に相談する場合もあります。そのため、実際に情報を共有する必要がある相手が、契約上「開示できる相手」に含まれているかを確認しましょう。

前述のサンプルでは、役員・従業員や専門家への開示を認める一方、開示を受けた人が違反した場合は、開示した当事者が自ら責任を負うとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」/中小企業庁)。社内で情報を共有する人数は、検討に必要な範囲に絞ることが大切です。

検討を終えたときの資料の扱い

検討の結果、交渉を進めないことになった場合でも、受け取った資料の扱いは秘密保持契約に従います。返還や破棄の定め、秘密保持の義務が続く期間を確認し、社内での管理方法を決めておきましょう。企業概要書を受け取った後の扱いは、「企業概要書(IM)とは?」のFAQでも解説しています。

FAQ

秘密保持契約書のひな形はありますか?

M&A専門業者に依頼している場合は、M&A専門業者が秘密保持契約書を用意するのが通常です。売り手と買い手が直接秘密保持契約を結ぶ場合は、中小M&Aガイドライン(第3版)の参考資料7に「秘密保持契約書サンプル」が掲載されています。ただし、サンプルはあくまで例であり、具体的な契約書を作成する際には弁護士などの専門家に相談することが望ましいとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」/中小企業庁)。

秘密保持契約を結ぶと、顧問税理士や金融機関に相談できなくなりますか?

契約の内容によります。秘密保持契約やM&A専門業者との契約の中で、顧問税理士などの専門家や金融機関が「情報を開示してよい相手」として定められていれば、その範囲で相談できます。中小M&Aガイドラインでは、専門家への相談が妨げられないかを確認しておくことが望ましいとされています。また、経営者保証について金融機関に相談する場合は、相談先を秘密保持条項の対象から除外したうえで行うことが求められています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)/中小企業庁、2024年8月30日公表)。契約を結ぶ前に、相談したい相手が含まれているかを確認しましょう。

秘密保持契約に違反した場合はどうなりますか?

契約に損害賠償の定めがある場合は、その定めに従って、違反によって生じた損害の賠償を求められることがあります。中小M&Aガイドラインの秘密保持契約書サンプルでも、違反によって相手に生じた損害(合理的な範囲の弁護士費用を含む)を賠償する定めが置かれています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」/中小企業庁)。

契約に損害賠償の定めがない場合でも、秘密保持義務への違反が債務不履行に当たる場合には、民法上の要件を満たせば損害賠償を請求できることがあります。

ただし、損害賠償を受けられたとしても、一度漏れた情報は元に戻りません。情報を開示する相手と範囲を絞り、漏えいを起こさないように進めることが大切です。

秘密保持契約は、売り手も義務を負うのですか?

契約によります。買い手候補だけが秘密保持の義務を負う形(片務契約)と、売り手と買い手候補の双方が義務を負う形(双務契約)のどちらもあります。中小M&Aガイドラインの秘密保持契約書サンプルは、双方が義務を負う形になっています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」/中小企業庁)。買い手候補にとっても、買収を検討していることや自社の情報を知られたくない場合があるためです。

まとめ|秘密保持契約は、情報を渡す前に「誰に、何を、どこまで」を決める契約

秘密保持契約は、M&Aで受け取った情報を外部に漏らさないことを約束する契約です。秘密保持について取り決める主な場面は、M&A専門業者への依頼、買い手候補への社名の開示、基本合意書の3つです。買い手候補に社名や詳しい情報を開示する場合は、原則として事前に秘密保持契約を結びます。

売り手は、顧問の専門家や金融機関に相談できる内容になっているかを確認し、社内で話す範囲も先に決めておきましょう。買い手は、検討に必要な相手と情報を共有できるか、検討を終えたときに資料をどう扱うかを確認しましょう。

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