M&AのVDR(バーチャルデータルーム)とは?主な機能・資料開示の流れと、売り手・買い手の注意点

M&AのVDR(バーチャルデータルーム)とは?主な機能・資料開示の流れと、売り手・買い手の注意点。依頼リスト、VDRへの登録、閲覧の権限の設定の流れを3つのアイコンで示した画像

M&AのVDR(バーチャルデータルーム)とは、デューデリジェンスで、売り手が買い手やその専門家に機密性の高い資料を開示するための、インターネット上の資料室です。この記事では、主な機能や一般的なクラウドストレージとの違い、資料開示の流れ、売り手・買い手の注意点を解説します。

M&AのVDRとは

VDR(バーチャルデータルーム)の意味

VDRとは、Virtual Data Roomの頭文字を取った略称で、デューデリジェンス(DD)において、売り手が買い手やその専門家に機密性の高い資料を開示するための、インターネット上の資料室です。

かつては、売り手の会社や専門家の事務所の一室に資料を置き、買い手側がそこへ出向いて閲覧する方法がとられることがありました。この部屋をデータルームといい、それをインターネット上に置き換えたものがVDRです。

デューデリジェンスで使われる理由

M&Aのデューデリジェンスとは、主に買い手が専門家に依頼して、対象会社の事業や財務、法務などを調査し、リスクや課題を確認する手続きです。一般的には、基本合意書の締結後から最終契約の締結前に行われます。

デューデリジェンスでは、主に「資料の確認」や「経営者などへのヒアリング」が実施されます。資料の確認では、契約書や人事情報などの機密性の高い資料も対象になります。こうした資料の開示先を限り、誰にいつ開示したかの記録を残すために使われる仕組みの一つがVDRです。

デューデリジェンスの一般的な流れの一例と、VDR(バーチャルデータルーム)を使う場面を示した図。基本合意書の締結後、1. 調査の範囲と日程を決める、2. 資料を依頼・開示する、3. 資料の確認と面談・現地調査、4. 追加の質問に答える、5. 報告書にまとめる、の順に進み、最終契約の締結に至る。2では開示する資料をVDRに登録し、閲覧できる人と資料の範囲を設定する。3では買い手側がVDRで資料を確認し、経営者などへの面談をマネジメントインタビューという。4では追加の資料や質問への回答もVDRで共有する。進め方は案件によって異なり、VDRを使わず共有フォルダなどで資料を受け渡すこともあると注記している

一般的なクラウドストレージとの違い

VDRもクラウドストレージも、インターネット上で資料を共有できる点は同じです。違いは、何のために作られているかにあります。

クラウドストレージは、社内や取引先との通常業務のファイル共有を目的として利用されます。どこからでも資料を開ける便利な保管場所です。サービスや契約プランによっては、資料ごとのアクセス制限や操作履歴の確認もできますが、社外の相手ごとに見せる資料を細かく分けたり、誰がどの資料を見たかを確かめたりするには、追加の設定や運用の工夫が必要になることがあります。そのため、M&Aのように機密性の高い資料を社外に開示する場面には向かないことがあります。

一方、VDRは、M&Aなどで機密性の高い資料を社外の相手に開示することに特化したサービスです。資料ごと・閲覧者ごとに閲覧や印刷・ダウンロードの権限を設定でき、誰がいつどの資料を見たかの記録も残せます。

VDRの主な機能と利点

主な機能

VDRの主な機能には、次のようなものがあります。利用できる機能は、サービスによって異なります。

  • 閲覧の権限の設定:閲覧できる人と資料の範囲を、相手ごとに設定できます。閲覧できる期間を区切れるものもあります。
  • 印刷・ダウンロードの制限:資料ごとに「閲覧のみ」にしたり、印刷やダウンロード、コピーを禁止したりできます。
  • 透かしの表示:閲覧者の名前や日時を、資料の画面に透かしとして表示できるものもあります。画面を撮影された場合にも、閲覧者を確認する手掛かりになります。
  • 閲覧の記録:誰が、いつ、どの資料を見たかの記録が残ります。閲覧した時間まで記録できるものもあります。
  • 不正なアクセスの防止:二段階認証や、通信・保存データの暗号化などの仕組みを備えたものが多くあります。
  • 質問と回答の管理:質問と回答(Q&A)を、資料と結び付けて管理できるものもあります。

ただし、印刷やダウンロードを禁止しても、別の端末で画面を撮影するなどの方法まで完全に防ぐことはできません。また、資料を差し替えたときの履歴を管理できるかどうかも、サービスによって異なります。

売り手・買い手にとっての利点

売り手にとっての利点

VDRでは、どの資料をいつ登録し、誰が閲覧したかなどの記録を残せます。こうした記録は、最終契約で、開示した情報の範囲や表明保証が問題になったときの確認材料になります。

ただし、資料を登録したことが、最終契約上の「開示」として認められるかどうかは、契約の定めなどによります。資料を登録したこと、買い手が閲覧できる状態にしたこと、買い手が実際に閲覧したことは、それぞれ別の事実です。

また、デューデリジェンスでは、契約書や給与台帳、取引先別の売上など、企業概要書よりも具体的な資料を大量に開示します。閲覧の権限を設定することで、こうした資料を見せる相手を管理しやすくなります。ダウンロードを禁止する設定にすれば、数式の入った表計算ファイルなどを、元のファイル形式のまま取得されることを制限できます。

買い手にとっての利点

資料室に出向かなくても、離れた場所から、複数の専門家が同時に資料を確認できます。追加された資料や質問への回答も、一か所で確認できます。

VDRの費用と、使わない場合の資料の受け渡し

有料のVDRサービスを利用する場合は、利用料金が発生します。料金体系はサービスによって異なります。

なお、中小企業のM&Aでは、VDRを使わず、紙の資料やメール、共有フォルダなどで資料を受け渡すこともあります。

どの方法で受け渡す場合も、秘密保持契約に沿って、誰に、どの資料を、いつ渡したかを記録しておくことが大切です。

情報の管理は、デューデリジェンスから始まるわけではありません。秘密保持契約を結んだ相手に企業概要書などを渡す段階から、すでに続いています。VDRは、その管理をデューデリジェンスの段階で引き継ぐための手段です。

共有フォルダを使う場合は、一例として、次のような管理をします。

  • 共有する相手を、必要な人に限る
  • 共有リンクの公開範囲を確認する(リンクを知っている人なら誰でも見られる設定になっていないか)
  • 案件が終わったら、共有を解除する

VDRを使った資料開示の流れ

資料開示の進め方は、案件によって異なります。一例として、次のような流れで進みます。

  1. 買い手から資料の依頼リストを受け取る:買い手やその専門家から、必要な資料の一覧(依頼リスト)が届きます。デューデリジェンスでは、多くの資料の提出を求められるのが一般的です。
  2. 開示する資料と時期を、M&A専門業者と決める:依頼リストの資料がそろっているか、すぐに出せない資料はないかを確認します。M&A専門業者(M&A仲介・FA)は、開示資料の整理・作成や、スケジュールの調整を支援します。
  3. VDRに資料を登録し、閲覧の権限を設定する:閲覧できる人の範囲は、秘密保持契約で認められた情報共有の範囲を確認して設定します。資料を追加・差し替えるときは、古い資料と新しい資料を区別できるように管理します。
  4. 買い手側の質問と追加の依頼に答える:資料を確認した買い手側から、質問や追加資料の依頼が届きます。回答は、誰が、いつ、何と答えたかが分かる形で残します。
  5. 調査終了後の資料と閲覧の権限を管理する:最終契約の締結やクロージング(株式や事業の引渡しと代金の支払い)までに、追加の確認が必要になることがあります。閲覧の権限は、追加確認の必要性や契約上の取り決めに応じて見直します。

2の工程で、M&A仲介が行う支援は、調査内容の検討や評価・判断に影響しない範囲に限られます。調査そのものは、主に買い手が依頼した公認会計士や弁護士などの専門家が行います。中小M&Aガイドラインでも、M&A仲介は自らデューデリジェンスを実施すべきではないとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.73・95/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

3の工程で資料を登録する際は、一例として、依頼リストの項目に合わせてフォルダを分けると、買い手側が資料を探しやすく、追加の依頼にも対応しやすくなります。資料を差し替えるときは、ファイル名に版数や日付を付け、何を変えたかを買い手側に伝える方法もあります。どの版の資料を、いつから閲覧できる状態にしたかを記録しておくことも大切です。差し替え前の資料を削除するか、履歴として残すかは、サービスの機能や案件の管理方針によります。

4の工程の質問と回答は、一覧にした「Q&Aシート」などで管理します。質問の一部は、経営者などへの面談(マネジメントインタビュー)で直接確認されることもあります。

M&Aが成立しなかった場合の資料の扱いは、秘密保持契約の定めに従います。VDRでは閲覧の権限をすぐに止められますが、それまでにダウンロードされた資料までは取り戻せません。ダウンロードを許可するかどうかの設定と、秘密保持契約の返還・破棄の定めは、開示を始める前にあわせて確認しておきましょう。

開示した資料と質問・回答の記録は、秘密保持契約などの制約を確認したうえで、必要な範囲で保管します。すべての資料を無条件に保管できるわけではありません。

中小PMIガイドラインでも、デューデリジェンスの調査報告書や、売り手へのQ&Aシートなどを、PMI(買収後の経営統合)の担当者や支援機関に引き継げるよう、適切に保管・管理することが望ましいとされています(出典:中小PMIガイドライン p.36/中小企業庁、2022年3月)。

売り手が気をつけたい3つのポイント

1. デューデリジェンスの前から、誰に何を渡したかを記録しておく

VDRで閲覧の記録が残るのは、VDRで開示した資料だけです。企業概要書など、デューデリジェンスより前に渡した資料は、別に管理する必要があります。

一例として、秘密保持契約を結んだ相手と、企業概要書などを渡した相手・日付・資料名を、M&A専門業者と共有して記録しておく方法があります。誰に、いつ、何を渡したかが分かる状態にしておくことが大切です。

2. 開示する資料の範囲と時期を、事前に決めておく

取引先の情報や従業員の個人情報、機密性の高い契約の内容など、配慮が必要な資料は、どこまで、いつ、どの方法で開示するかを、M&A専門業者と事前に確認しましょう。例えば、交渉の段階に応じて段階的に開示する、個人名を伏せて開示するといった方法があります。

デューデリジェンスでは、買い手から多くの資料を求められるのが一般的です(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.95/中小企業庁、2024年8月30日公表)。そのため、準備しておきたい資料の例を参考に、資料は早めに整えておくことが大切です。社内にM&Aを伝えていない段階では、資料の集め方にも注意しましょう。

3. 閲覧できる人と資料の範囲を、登録前に確認する

VDRは、設定によっては、見せたくない相手に資料が見えてしまうことがあります。

閲覧できる人が、秘密保持契約で認められた情報共有の範囲に収まっているか、どの資料を誰に見せるかを、登録の前にM&A専門業者と確認しましょう。閲覧者を追加するときも、同じ確認が必要です。

また、売り手側にも、資料を確認するための閲覧用のアカウントを発行することがあります。アカウントを持つ人は、M&Aを知らせてよい範囲に限りましょう。社内の人にアカウントを渡すと、そこからM&Aの検討が知られるおそれがあります。

VDRを使っても、情報漏えいを完全に防げるわけではありません。印刷やダウンロードを禁止しても、閲覧した人による書き写しや、別の端末での画面の撮影などを完全に防ぐことはできないためです。取引先名や個人別の給与など、特に機密性の高い情報は、開示する相手や時期を慎重に判断することが基本です。VDRの機能は、秘密保持契約と組み合わせて使うものです。開示した情報は、相手が秘密保持契約に基づいて取り扱います。

買い手が気をつけたい3つのポイント

1. 閲覧のルールと秘密保持契約の範囲を守る

VDRでは閲覧の記録が残り、印刷やダウンロードが制限された資料もあります。資料を閲覧できる人は、秘密保持契約で認められた情報共有の範囲と、売り手側が設定したアクセス権限によって決まります。

社内の担当者や専門家などの閲覧者を追加する場合は、秘密保持契約の定めとVDRの運用ルールを確認し、必要な手続きを経て追加してもらいましょう。資料の内容を書き写して社外と共有する場合も、秘密保持契約で認められた範囲かを確認する必要があります。

2. 資料を確認したうえで、質問と追加の依頼をまとめて出す

資料を見れば分かることを質問すると、売り手の負担が大きくなります。資料を確認した結果を踏まえて質問を整理し、Q&A機能などを使って、質問と回答を一か所にまとめましょう。

中小M&Aガイドラインでも、M&A仲介が買い手に対し、売り手に過大な負担が生じないよう、デューデリジェンスの調査対象を適切な範囲とするよう働き掛けることが望ましいとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.95/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

3. 確認した資料の日付と版を記録しておく

資料は、調査の途中で差し替えや追加が行われることがあります。どの時点の、どの版の資料を確認したかが分からないと、最終契約の内容を確認するときや、クロージング後に問題が見つかったときの確認が難しくなります。

確認した資料の名前・日付・版を、一覧にして残しておきましょう。あわせて質問と回答の記録も残し、最終契約やPMIへの引継ぎに備えましょう。

FAQ

VDR(バーチャルデータルーム)とは何ですか?

M&Aのデューデリジェンスなどで、機密性の高い資料を社外の相手に開示するために使う、インターネット上の資料室です。一般的なクラウドストレージと比べて、閲覧できる人や資料ごとの権限の設定、誰がいつどの資料を見たかの記録など、資料の開示を管理する機能を重視して作られています。

VDRは紙の資料で受け渡すより安全ですか?

VDRでは、閲覧できる人や期間を資料ごとに設定でき、誰がいつどの資料を見たかの記録も残ります。交渉が進まなくなったときは、閲覧の権限を止めることもできます。また、ダウンロードを許可せず、閲覧時に透かしを表示すれば、資料の持ち出しのリスクをさらに下げられます。ただし、画面の撮影や書き写しまで完全に防ぐことはできません。

一方、紙の資料は、一度コピーされると、誰が持っているかを追えません。こうした点で、VDRのほうが資料の開示を管理しやすいといえます。

VDRは必ず使わなければなりませんか?

必ず使わなければならないものではありません。中小企業のM&Aでは、紙の資料やメール、共有フォルダなどで資料を受け渡すこともあります。

どの方法でも、誰に何を渡したかを記録し、秘密保持契約に沿って管理することが大切です。

VDRで開示された資料は、買い手がダウンロード・印刷できますか?

売り手側の設定によります。VDRでは、資料ごとに「閲覧のみ」にしたり、印刷やダウンロードを禁止したりできます。

ただし、設定しても画面の撮影などを完全に防ぐことはできません。設定にかかわらず、開示された資料の扱いは、秘密保持契約の定めに従う必要があります。

まとめ|VDRは、デューデリジェンスでの資料開示を管理するための仕組み

VDRは、デューデリジェンスで機密性の高い資料を開示し、その記録を管理するための仕組みです。

ただし、VDRを使うかどうかにかかわらず、開示する資料の範囲・時期・相手は、デューデリジェンスの前から管理する必要があります。

売り手は、買い手から資料の依頼リストを受け取った段階で、開示の方法をM&A専門業者と相談しましょう。あわせて、デューデリジェンス全体の流れや、経営者への質問(マネジメントインタビュー)も確認しておくと、資料開示の準備を進めやすくなります。