【売り手向け】M&Aにかかる税金とは?株式譲渡・事業譲渡の違いと、手取り額を確認するポイント

M&Aで株式や事業を譲渡したときの税金は、株式譲渡では株主に、事業譲渡ではまず会社にかかります。また、所得税や法人税等は受け取った金額ではなく利益をもとに計算します。この記事では、税金の種類と計算方法、税金を抑えるためにできること、申告の時期などの注意点を解説します。
M&Aにかかる税金
スキーム別納税者・税金・税率の違い
M&Aの主な方法(スキーム)には、株主が株式を譲渡する株式譲渡と、会社が事業を譲渡する事業譲渡があります。どちらの方法かによって、誰に、どのような税金がかかるかが変わります。
| 株式譲渡(個人株主) | 株式譲渡(法人株主) | 事業譲渡 | |
|---|---|---|---|
| 税金がかかる人 | 株主(個人) | 株主(法人) | 売り手の会社 |
| 主な税金 | 所得税・住民税 | 法人税等 | 法人税等、消費税(課税資産の部分) |
| 税率・計算 | 20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%) | 会社の他の損益と合わせて計算 | 会社の他の損益と合わせて計算 |
| 課税方式 | 申告分離課税 | ― | ― |
| オーナー個人の手元に入るまで | 譲渡代金を株主が直接受け取る | ― | 会社の資金を配当や役員報酬などで移す場合は、個人にも所得税等がかかる |
株式譲渡では、株主が譲渡代金を受け取るため、株主に税金がかかります。事業譲渡では、事業を持つ会社が対価を受け取るため、まず会社に税金がかかります(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.118/中小企業庁、2024年8月30日公表)。
引き継ぐ範囲や手続きなど、税金以外の違いは株式譲渡と事業譲渡の違いで確認できます。
所得税・法人税等は、譲渡による利益をもとに計算する
所得税や法人税等は、受け取った金額の全体ではなく、譲渡による利益をもとに計算します。たとえば20.315%は、譲渡価格の全額ではなく、株式の譲渡による利益にかかる税率です。
ただし、利益の計算方法は株式譲渡と事業譲渡で異なります。
- 株式譲渡(個人株主):譲渡価格から、株式の取得費と譲渡のための手数料などを差し引いて計算します。
- 事業譲渡:事業の譲渡による利益を、会社のその年の他の損益と合わせて計算します。
なお、事業譲渡でかかる消費税は、利益ではなく、譲渡する資産の対価をもとに計算する別の仕組みです。詳しくは「資産によって消費税がかかる」で説明します。
株式譲渡にかかる税金
個人株主の税率は20.315%
非上場株式(一般株式等)を譲渡して得た利益には、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%の税金がかかります。給与などの他の所得とは分けて税額を計算する申告分離課税です(出典:No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)/国税庁)。
中小M&Aガイドラインでも、株式譲渡の場合、株主である経営者個人の税金は、譲渡益に対する分離課税で課税関係が終了するとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.118/中小企業庁、2024年8月30日公表)。
ただし、所得が非常に大きい場合には、この税率に加えて追加の負担が生じることがあります(「利益が非常に大きい場合の追加の負担」で説明します)。
なお、令和9年1月からは、復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に下がり、新たに税率1%の防衛特別所得税がかかります。上乗せされる税率の合計は変わらないため、20.315%の税率は変わりません(出典:令和8年度税制改正 p.12/財務省、2026年4月)。
譲渡所得の計算方法
国税庁は、株式を譲渡したときの所得を次の式で示しています。
総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)=譲渡所得等の金額
譲渡価額は、株式を譲渡して受け取る金額(譲渡価格)です。この譲渡所得等の金額に20.315%を掛けたものが、税額の目安になります(出典:No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)/国税庁)。
- 取得費:株式を取得したときに支払った金額です。会社を設立したときや増資したときに払い込んだ金額、他の株主から買い取った場合はその代金などが当たります。
- 委託手数料等:株式の譲渡のためにかかった手数料などです。M&A専門業者(M&A仲介・FA)への手数料も、株式の譲渡に直接必要な費用として認められる場合は、委託手数料等として差し引くことができます。
株主が複数いる場合は、株主ごとに計算して申告します。
取得費が分からないと、税金が多くなることがあります。確認の方法は「株式の取得費を確認できる資料をそろえる」で説明します。
次の条件で株式を譲渡した場合の、税額の目安です。委託手数料等500万円は、M&A専門業者に支払った手数料を想定しています。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 譲渡価格 | 1億円 |
| 取得費 | 1,000万円 |
| 委託手数料等 | 500万円 |
| 譲渡所得 | 8,500万円 |
| 税額の目安(20.315%) | 1,726万7,750円 |
| 税金と手数料を差し引いた受取額 | 7,773万2,250円 |
譲渡所得は、1億円から取得費1,000万円と委託手数料等500万円を差し引いた8,500万円です。これに20.315%を掛けると、税額の目安は1,726万7,750円になります。取得費は過去に支払った金額のため、受取額からは差し引きません。
※単純化した試算です。実際の税額は、適用される制度や端数処理などによって異なります。
利益が非常に大きい場合の追加の負担
株式の譲渡益を含め、1年間の所得が非常に大きい場合には、通常の所得税に加えて追加の負担が生じることがあります。極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(いわゆるミニマムタックス)という制度で、令和7年分以降の所得税に適用されています(出典:No.2270 特定の基準所得金額の課税の特例/国税庁)。
追加の負担が生じるかは、株式の譲渡益だけでなく、その年の所得全体で判定します。この制度は令和9年分の所得から見直され、特別控除額が3.3億円から1.65億円に、税率が22.5%から30%に変わり、対象が広がります(出典:令和8年度税制改正 p.3/財務省、2026年4月)。
この制度は、所得が非常に大きい人を対象とするものですが、実際に追加の税負担が生じるかどうかは、通常の所得税額との比較によって決まります。該当しそうな場合は、譲渡の時期も含めて税理士に確認しましょう。
法人株主が株式を譲渡する場合
株主が法人(オーナーの資産管理会社など)の場合は、株式の譲渡損益がその法人の法人税等の計算に含まれます。具体的な税額は、その法人の他の損益によって変わるため、税理士に確認しましょう。
事業譲渡にかかる税金
会社の譲渡益に法人税等がかかる
事業譲渡では、譲渡の対価は事業を持つ会社が受け取ります。事業の譲渡による利益は、会社のその年の他の損益と合わせて、法人税等の対象になります(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.118/中小企業庁、2024年8月30日公表)。
会社に過去の赤字(繰越欠損金)がある場合などは、税額が変わることがあります。法人税等の負担は、会社の所得の額や規模などによって変わるため、一つの税率では示せません。実際の税額は、税理士に試算してもらいましょう。
資産によって消費税がかかる
事業譲渡では、譲渡する資産ごとに消費税がかかるかどうかが分かれます。建物・設備・営業権(のれん)などには消費税がかかり、土地にはかかりません。消費税は買い手から受け取り、売り手の会社が納めます(出典:消費税法 第6条・別表第二/e-Gov法令検索、質疑応答事例「営業譲渡における対価額の課税区分」/国税庁)。
株式の譲渡には消費税はかかりません。資産ごとの区分の考え方は、株式譲渡と事業譲渡の税金の違いでも説明しています。
オーナー個人に資金を移すときにも税金がかかる
事業譲渡では、まず売り手の会社に法人税等がかかります。その後、会社の資金を配当や役員報酬などでオーナー個人に移す場合は、個人にも所得税等がかかります。非上場会社である売り手の会社から配当や役員報酬を受け取る場合の課税の方法は、次のとおりです。
| 資金を移す方法 | 個人の所得の種類 | 課税の方法 |
|---|---|---|
| 配当 | 配当所得 | 総合課税 |
| 役員報酬 | 給与所得 | 総合課税 |
総合課税は、給与などの他の所得と合わせて税額を計算する方法で、税率は所得が多いほど高くなります。中小M&Aガイドラインでは、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせた税率を15.105%〜55.945%としています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.118/中小企業庁、2024年8月30日公表)。
会社に資金を残しておく場合や、会社を清算して残った財産を分配する場合は、税金のかかり方が異なります。会社のその後の扱いもあわせて、税理士に確認しましょう。
M&Aの税金を抑えるために売り手ができる2つのこと
税金は、M&Aの方法や条件によって変わります。ここでは、いわゆる節税として売り手が検討できることを2つ紹介します。いずれも、効果は会社や個人の状況によって異なるため、実際に使えるかは税理士に確認しましょう。
1. 役員退職慰労金との組み合わせを検討する
株式譲渡では、代表者が役員を退任するときに、会社から役員退職慰労金を支払い、その分を踏まえて譲渡価格を決めることがあります。中小M&Aガイドラインでも、M&Aと代表者への役員退職慰労金の支払いを組み合わせることがあるとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.117/中小企業庁、2024年8月30日公表)。
役員退職慰労金は、事業譲渡と組み合わせて検討される場合もありますが、支給の条件や税務上の取り扱いは個別に確認する必要があります。
役員退職慰労金は個人の退職所得となり、配当や役員報酬とは分けて税額を計算します。勤続年数に応じた控除があるなど、税負担が軽くなるように計算される仕組みです(出典:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)/国税庁)。
ただし、金額が高すぎると、会社の損金として認められない部分が出ることがあります。また、譲渡後も役員として勤務を続ける場合や、退任後に顧問として関与する場合には、退職の実態などによって税務上の取り扱いが異なることがあります。
譲渡価格と役員退職慰労金の配分によって、個人と会社の税金、手取り額が変わります。配分は、税理士に試算してもらいましょう。買い手から見た役員退職慰労金の考え方は、M&Aの資金調達で説明しています。
2. 株式の取得費を確認できる資料をそろえる
株式譲渡では、取得費が分かれば、その分を譲渡価格から差し引けます。会社を設立したときや増資したときの払込み、他の株主から株式を買い取ったときの代金などを、資料で確認しておきましょう。資料の例としては、定款、登記簿、払込みの記録が残る通帳、株式の売買契約書などがあります。
相続した株式や、取得した時期が古いなどの理由で取得費が分からない場合は、譲渡価格の5%を取得費とすることも認められています。ただし、実際の取得費がそれより多い場合は、実際の取得費で計算するより税金が多くなります(出典:No.1464 譲渡した株式等の取得費/国税庁)。
あわせて、株主名簿や、他人の名義を借りて持っている株式(名義株)がないかも確認しておきます。中小M&Aガイドラインでは、名義株などがM&Aで問題となるケースが多く、あらかじめ整理しておくことが望ましいとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.117/中小企業庁、2024年8月30日公表)。
M&Aの税金で売り手が注意したい3つのポイント
1. 申告と納税の時期を把握する
株式譲渡で個人株主に所得が生じた場合は、譲渡した年の翌年に確定申告をします。確定申告の期間は、原則として翌年2月16日から3月15日までで、所得税等の納付の期限も原則として3月15日です(出典:No.2020 確定申告/国税庁)。
譲渡代金を受け取ってから納税までには時間が空きます。納税の資金を使ってしまわないよう、受け取った時点で税金の分を取り分けておきましょう。
2. 税金の根拠となる資料を残しておく
株式の取得費や、譲渡価格・役員退職慰労金の金額の決め方など、税金の計算の根拠となる資料は、M&Aの後も保管しておきましょう。後から税務署に説明を求められたときに、根拠を示せるようにするためです。
譲渡価格の決め方の根拠には、企業価値評価の資料や、交渉の経緯が分かる書面などがあります。
3. 方法や条件を決める前に税理士に相談する
税金の相談は、M&Aの方法や役員退職慰労金の有無を話し合う前に始めるのが望ましいです。基本合意書を結んで条件の大枠が決まった後では、方法や配分を見直しにくくなります。条件交渉に入る前に、手取り額を試算してもらいましょう。
相談先は、会社の状況をよく知る顧問税理士が基本です。必要に応じて、M&Aに詳しい税理士やM&A専門業者と連携します。中小M&Aガイドラインでは、M&Aに関する業務が通常の顧問業務の範囲外となる場合、税理士は事前に業務内容や報酬などについて了承を得ることが必要とされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.116/中小企業庁、2024年8月30日公表)。顧問料とは別に費用がかかることもあるため、最初に確認しておくと安心です。
相談のときは、次の資料を用意しておくと話が進めやすくなります。
- 決算書・税務申告書
- 株主名簿と、株式を取得した経緯が分かる資料
- 役員としての勤続年数が分かる資料
- 想定している譲渡価格とM&Aの方法
FAQ
会社を株式譲渡したときの税金は、いつ、どのように納めますか?
個人株主の場合は、株式を譲渡した年の翌年に確定申告をして、所得税等を納めます。確定申告の期間は、原則として翌年2月16日から3月15日までで、納付の期限も原則として3月15日です。株式の譲渡による所得は、給与などの他の所得とは分けて税額を計算します。譲渡代金を受け取った時点で、納税の資金を取り分けておくと安心です。
株式を取得したときより安く譲渡した場合、税金はどうなりますか?
非上場株式を取得費より安く譲渡し、譲渡による損失が出た場合は、その株式の譲渡に所得税・住民税はかかりません。ただし、非上場株式の譲渡損失は、原則として上場株式の譲渡益や、給与など他の所得と相殺することはできず、翌年以降に繰り越すこともできません(出典:No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い/国税庁)。一定の要件を満たす中小企業の株式には例外もあるため、税理士に確認しましょう。
株式譲渡と事業譲渡では、手元に残る金額はどちらが多くなりますか?
一概には言えません。株式譲渡は、個人の譲渡益への課税で終わります。事業譲渡は、まず会社に法人税等がかかり、会社の資金を配当や役員報酬などでオーナー個人に移す場合は、個人にも所得税等がかかります。ただし、会社の繰越欠損金や、株式譲渡での役員退職慰労金との組み合わせ、譲渡する範囲などによって手取り額は変わります。方法ごとの手取り額は、税理士に試算してもらいましょう。
まとめ|税金を考慮してM&Aの条件を検討する
M&Aの税金は、株式譲渡と事業譲渡で、かかる人も計算の方法も異なります。株式譲渡では、株主個人の譲渡益に20.315%の税金がかかります。事業譲渡では、まず会社に法人税等がかかり、資金をオーナー個人に移す場合は個人にも所得税等がかかります。
譲渡価格だけで判断せず、税金や手数料を差し引いた手取り額で、M&Aの条件を検討することが大切です。株式譲渡では、役員退職慰労金との組み合わせも含めて考えます。
まずは、決算書や株式の取得の経緯が分かる資料をそろえ、M&Aの方法や条件を話し合う前に、顧問税理士に手取り額を試算してもらいましょう。税金以外の方法の違いは株式譲渡と事業譲渡の違い、手数料の仕組みはM&Aの手数料で確認できます。

