株式譲渡とは?M&Aでの仕組み・手続きの流れと、譲渡前に確認すること

株式譲渡とは?M&Aでの仕組み・手続きの流れと、譲渡前に確認すること。売り手(株主)が買い手に株式を譲渡し、買い手が対価を支払い、対象会社はそのまま残る関係を示した画像

株式譲渡とは、株主が保有する株式を買い手に譲渡することで、M&Aでは会社をそのまま引き継いでもらう方法として使われます。この記事では、譲渡で変わることと残ること、手続きの流れ、譲渡前に確認しておくことを解説します。

株式譲渡とは

株式譲渡の意味

株式譲渡とは、株主が保有する株式を買い手に譲渡することです。M&Aでは、買い手が会社の経営権を引き継ぐために用いられます。ただし、一部の株式だけを譲渡する場合は、経営権が移らないこともあります。

株式譲渡で売り手になるのは、会社ではなく株主です。中小企業では、多くの場合、株式を持つオーナー経営者が売り手となり、譲渡の対価もオーナー個人が受け取ります。

例えば、買い手企業が対象会社の全株式を取得する場合、対象会社は買い手企業の子会社になります(出典:中小M&Aの主な手法と特徴(参考資料1) p.1/中小企業庁)。買い手が個人の場合もあります。

中小企業のM&Aでは、株式譲渡と事業譲渡が選ばれることが多いとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.48/中小企業庁、2024年8月30日公表)。M&A支援機関登録制度の集計では、2024年度に報告された中小M&Aのうち、約7割が株式譲渡、約2.5割が事業譲渡で、株式譲渡が最も多くなっています(出典:登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果(M&A形態の割合)/中小企業庁)。この集計は、制度に登録したM&A支援機関から報告のあった案件をまとめたもので、すべてのM&Aを含むものではありません。

事業譲渡との違いや選び方は、株式譲渡と事業譲渡の違いで確認できます。

株主が変わっても、会社はそのまま残る

株式譲渡では、株主が変わるだけで、会社そのもの(法人格)はそのまま残ります。会社の資産・負債、従業員との雇用契約、取引先との契約、許認可は、原則として会社に残ります。(出典:中小M&Aの主な手法と特徴(参考資料1) p.1/中小企業庁)

区分 内容
株式譲渡によって変わること
  • 譲渡された株式の保有者(株主)
原則としてそのまま残ること
  • 会社の法人格
  • 資産・負債(決算書に載っていない債務を含む)
  • 従業員との雇用契約
  • 取引先・金融機関との契約
  • 許認可
別途、取り決めや手続きによって変わること
  • 経営者・役員
  • 会社名

株主が変わっても、役員が自動的に交代するわけではありません。役員を交代する場合は、新たな役員の選任や、従来の役員の退任に必要な手続きを行います。これまでの経営者が、引継ぎのために一定期間だけ役員として残る場合や、長期にわたって残る場合もあります。どうするかは、買い手との取り決めで決まります。会社名を変える場合は、定款の変更が必要です(出典:会社法 第27条・第466条/e-Gov法令検索)。

ただし、次の2点には注意が必要です。

  • チェンジ・オブ・コントロール条項:株主が変わったときに、相手方の承諾を得たり、相手方へ通知したりすることを求める契約上の定めです。賃貸借契約などにこの定めがある場合は、契約を続けるために、事前に相手方との協議が必要になることがあります(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.56/中小企業庁、2024年8月30日公表)。
  • 経営者保証:会社の借入金などを社長個人が保証している場合、株式を譲渡しただけでは保証は外れません。金融機関などとの協議と、最終契約での取り決めを経て解除します。

全部を譲渡する場合と、一部を譲渡する場合

中小企業のM&Aでは、株式の全部(100%)を譲渡することが多いとされています(出典:M&A基礎知識/東京都事業承継・引継ぎ支援センター)。ただし、全部を譲渡することは必須ではなく、一部だけを譲渡する場合もあります。どこまで譲渡するかは、売り手と買い手の協議で決まります(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.48/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

一部だけを譲渡する場合は、買い手が持つ議決権の割合によって、会社の運営にどこまで関われるかが変わります。

買い手が持つ議決権 株主総会で決められることの例
過半数 取締役の選任など
3分の2以上 定款の変更、事業譲渡の承認など(特別決議)

決議には、議決権の過半数にあたる株主の出席が必要です。そのうえで、取締役の選任は出席した株主の議決権の過半数、特別決議は3分の2以上の賛成で決まります。定款で要件を変えている会社もあるため、事前に定款を確認しましょう(出典:会社法 第309条・第341条/e-Gov法令検索)。

一部を譲渡する場合の例として、売り手が一定期間は株主として残り、引継ぎに協力する方法があります。

株主が複数いる会社で全株式を譲渡するには、各株主が譲渡に応じる必要があります。進め方は「ほかの株主の意向と譲渡方法を確認する」で説明します。

株式譲渡のメリット・デメリット

株式譲渡の主なメリット・デメリットは、次のとおりです。事業譲渡と比べた違いは、株式譲渡と事業譲渡のメリット・デメリットで整理しています。

メリット

  • 手続きが比較的簡単:資産や契約を一つずつ移す必要がなく、許認可の取り直しも原則として必要ありません(売り手・買い手。出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.48・118/中小企業庁、2024年8月30日公表)。
  • 会社をそのまま引き継いでもらえる:従業員や取引先との関係が続きやすくなります(売り手)。
  • 株主個人が譲渡対価を直接受け取れる:オーナー経営者が株主であれば、対価はオーナー個人に入ります(売り手)。
  • 事業・許認可・人材をまとめて引き継げる:取得した会社の事業や人材を、そのまま経営に生かせます(買い手)。

デメリット

  • 会社の負債やリスクもそのまま残る:決算書に載っていない簿外債務や、将来生じるおそれのある債務も、会社に残ります(買い手)。
  • 詳しい調査が行われやすい:会社のリスクをそのまま引き継ぐため、買い手が対象会社を調べるデューデリジェンス(DD)が詳しく行われる傾向にあります(売り手・買い手。出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.48/中小企業庁、2024年8月30日公表)。
  • 一部の事業や資産を外せない:株式譲渡だけでは、会社の一部の事業や資産を譲渡の対象から外せません(売り手)。会社全体が評価の対象になるため、不採算の事業などが譲渡価格に影響することもあります。
  • 株主が分散していると時間がかかる:株主が多い会社では、全株式をまとめるのに時間がかかることがあります(売り手)。

株式譲渡の手続きの流れ

ここでは、M&A全体の流れのうち、最終契約の前後に行う、株式を移すための手続きを説明します。

  1. 定款と株主名簿を確認する
  2. 株式譲渡契約を結ぶ
  3. 会社が譲渡を承認する
  4. 譲渡代金の支払いと株式の引渡し
  5. 株主名簿を書き換える
  6. 役員の変更などの手続きを行う

1. 定款と株主名簿を確認する

まず、定款で譲渡制限の有無を確認します。譲渡制限とは、株式を譲渡するときに会社の承認が必要になる定めです。中小企業の多くは、定款でこの定めを設けています。譲渡を承認するのは、原則として株主総会(取締役会がある会社では取締役会)ですが、定款で別に定めることもできます(出典:会社法 第107条・第139条/e-Gov法令検索、中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.17/中小企業庁、2025年12月15日時点版)。

株券を発行する会社かどうかも確認します。株券を発行するのは、定款で定めた会社だけです。株券を発行する会社であることは登記されるため、定款と登記事項証明書で確認できます。株券を発行する会社では、原則として、株式の譲渡に株券の交付が必要です。(出典:会社法 第128条・第214条・第911条/e-Gov法令検索、中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.17/中小企業庁、2025年12月15日時点版)

あわせて、株主名簿で株主と持株数を確認します。中小企業では、株主名簿や株主総会の議事録などの整備が十分でない会社も少なくありません(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.112/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

2. 株式譲渡契約を結ぶ

売り手(株主)と買い手が、最終契約として株式譲渡契約を結びます。主に、次の内容を決めます(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.16〜26/中小企業庁、2025年12月15日時点版)。

  • 譲渡する株式の数
  • 譲渡価格と支払い方法
  • クロージング(株式や事業の引渡しと代金の支払い)の日と、その前提条件
  • 表明保証と補償
  • 経営者保証の扱い
  • 役員の退任

株式譲渡契約書には、通常、印紙税はかかりません。ただし、代金の受領を証明する記載などがある場合は、記載内容や取引の性質に応じて、印紙税がかかることがあります(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.118/中小企業庁、2024年8月30日公表、No.7125 営業に関しない受取書/国税庁)。

3. 会社が譲渡を承認する

株式に譲渡制限がある場合は、売り手が会社に対し、買い手への譲渡を承認するかどうかの決定を求めます。請求では、譲渡する株式の数と、買い手の名前などを示します。買い手が株式を取得した後に、売り手と共同で請求することもできます(出典:会社法 第136条〜第138条/e-Gov法令検索)。

会社は、株主総会(取締役会がある会社では取締役会)で承認するかどうかを決め、その結果を請求した人に通知します。決議をした場合は、議事録を作成します(出典:会社法 第139条・第318条・第369条/e-Gov法令検索)。

承認の段取りは、事前に決めておきましょう。承認を受けてから契約を結ぶ方法のほか、会社の譲渡承認をクロージングの前提条件として、承認前に株式譲渡契約を結ぶ方法もあります(出典:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料7「各種契約書等サンプル」 p.18〜19/中小企業庁、2025年12月15日時点版)。

4. 譲渡代金の支払いと株式の引渡し(クロージング)

クロージングでは、最終契約で決めた日に、買い手が譲渡代金を支払い、売り手が株式を引き渡します。株券を発行する会社では、株券も渡します。

5. 株主名簿を書き換える

買い手が株主であることを会社などに主張するには、株主名簿に買い手の氏名や住所を記載する必要があります。株主名簿の書換えは、原則として売り手と買い手が共同で会社に請求します(出典:会社法 第130条・第133条/e-Gov法令検索)。

株主の氏名は登記されないため、株式を譲渡しても、そのための登記は必要ありません(出典:会社法 第911条/e-Gov法令検索)。

6. 役員の変更などの手続きを行う

役員が交代する場合は、株主総会や取締役会で手続きを行い、役員変更の登記をします。あわせて、従業員や取引先、金融機関にM&Aを報告します。契約に応じて、代表者情報の変更や保証人に関する手続きなども行います(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.56〜57/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

株式譲渡の前に売り手が確認しておく4つのこと

1. 株主が誰かを確定させる

株式を譲渡するには、まず、誰が株主なのかがはっきりしている必要があります。中小企業では、名義株や所在不明株主が問題になることが多いとされています(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.112/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

  • 名義株:他人の名義を借りて引き受けるなど、名義上の株主と実際の株主が異なる株式です。1990年の商法改正前は、株式会社の設立に7人以上の発起人が必要だったため、設立時に他人の名義を借りる例が多くありました。名義上の株主と実際の株主の間で争いにならないよう、名義の書換えや、株主であることを確認する合意で整理しておきます。
  • 所在不明株主:連絡がつかない株主です。一定の要件を満たす場合は、会社法の手続きで、その株式を売却することなどができます。都道府県知事の認定などを受けることで、必要な期間を短くできる特例もあります。

どちらも、弁護士に相談しながら進めましょう(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.124/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

2. ほかの株主の意向と譲渡方法を確認する

株主が複数いる会社で全株式の譲渡を目指す場合は、各株主の意向を確認し、譲渡の進め方を調整します。各株主がそれぞれ売り手として買い手と契約する方法のほか、事前に株式を一人に集めておく方法や、委任状を取得して手続きをまとめる方法があります(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.124/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

高齢の株主がいる場合などは、早めに話を進めておくと安心です。株式を大株主に集める会社法上の方法(スクイーズアウト)もありますが、手続きは専門家と確認しながら進めましょう(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.125/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

3. 重要な契約と許認可を確認する

取引基本契約や賃貸借契約、フランチャイズ契約、借入れの契約などに、チェンジ・オブ・コントロール条項がないかを確認します。条項がある場合は、相手方といつ協議するかを、秘密保持とのバランスも考えながら、M&A専門業者(M&A仲介・FA)と相談して決めましょう。

許認可は原則として会社に残りますが、種類によっては、株主や役員が変わったときに届出が必要な場合があります。重要な契約の定めは、買い手が経営者に話を聞くマネジメントインタビューでも確認されることがあります。

4. 会社と経営者個人の資産・お金の関係を整理する

中小企業では、会社と経営者個人の資産やお金の関係が分かれていないことがあります。役員社宅、会社と経営者の間の貸し借り、役員保険、経営者個人の名義になっている事業用の土地・建物などを、会社のものと個人のものに切り分けて整理しておきましょう(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.112・125/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

株式譲渡では会社ごと引き継ぐため、整理していないと、譲渡価格や契約の条件で調整が必要になることがあります。顧問税理士に確認しながら進めましょう。

株式譲渡でかかる税金

株式譲渡では、株式を譲渡した株主に税金がかかります。個人株主の譲渡益には、原則として20.315%の申告分離課税が適用されます。20.315%は、譲渡価格の全額ではなく、譲渡価格から株式の取得費や譲渡の費用を差し引いた利益にかかる税率です(出典:No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)/国税庁)。

株主が法人の場合は、株式の譲渡損益が、その法人の法人税等の計算に含まれます(出典:法人税法 第61条の2/e-Gov法令検索)。株式の譲渡には、消費税はかかりません(出典:No.6201 非課税となる取引/国税庁)。

役員退職慰労金との組み合わせや、申告の時期、手取り額の考え方は、M&Aにかかる税金で確認できます。

FAQ

株式譲渡をすると、会社名や従業員の雇用はどうなりますか?

株式譲渡では株主が変わるだけで、会社はそのまま残ります。そのため、会社名は原則として変わりません。会社名を変えるかどうかはM&Aの取り決めによって決まり、変える場合は定款の変更が必要です。

従業員との雇用契約や労働条件も、株式譲渡だけでは変わりません。譲渡後に労働条件を変更する場合は、従業員との合意など、労働法令に沿った対応が必要です(出典:労働契約法 第8条〜第10条/厚生労働省)。

株式譲渡の後も、社長として会社に残ることはできますか?

買い手と合意すれば、株式を譲渡した後も、社長として経営を続けることができます。引継ぎのために一定期間だけ続ける場合もあれば、長期にわたって役員として残る場合もあります。

社長を退いたうえで、役員や顧問として引継ぎに協力する方法もあります。役職や期間、報酬は、最終契約などで取り決めます。

株券を発行していない会社でも、株式譲渡はできますか?

できます。株券を発行するのは、定款で株券を発行すると定めた会社だけです。株券を発行しない会社では、株式譲渡契約を結び、譲渡制限があれば会社の承認を受け、株主名簿を書き換えることで手続きを進めます。

定款や登記では株券を発行する会社とされているのに、株券が見当たらない場合は注意が必要です。株券が未発行の場合と、発行済みの株券を紛失した場合では対応が異なるため、早めに弁護士や司法書士に必要な手続きを確認しましょう(出典:会社法 第128条・第130条・第133条・第139条・第214条/e-Gov法令検索)。

株主が複数いる場合、株式譲渡はどのように進めますか?

全株式を譲渡する場合は、各株主が譲渡に応じる必要があります。各株主がそれぞれ買い手と契約する方法のほか、事前に株式を一人に集めておく方法や、委任状で手続きをまとめる方法があります。連絡がつかない株主がいる場合も、一定の要件を満たせば、会社法の手続きで対応できます(出典:中小M&Aガイドライン(第3版) p.124/中小企業庁、2024年8月30日公表)。

まとめ|株主が変わるだけで、会社はそのまま引き継がれる

株式譲渡とは、株主が保有する株式を買い手に譲渡することです。M&Aでは、会社ごと引き継いでもらう方法として使われます。会社の資産・負債や従業員、取引先との契約は原則として残るため、手続きは比較的簡単です。

譲渡を円滑に進めるためには、譲渡の前に「株主が誰か」「重要な契約と許認可」「会社と経営者個人の関係」を整えておくことが大切です。

まずは定款と株主名簿、重要な契約を確認し、M&A専門業者や弁護士、税理士に相談しましょう。事業譲渡と比べて検討したい場合は株式譲渡と事業譲渡の違いを、手取り額を考える場合はM&Aにかかる税金を参考にしてください。

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